例え世界が滅びても ♂×2 ♀×2 / 白鷹




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所要時間:40分程度
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●世界観●


20XX年、ヒューマノイド(人間型ロボット)が一世帯に複数体というヒューマノイド普及時代





●登場人物●


レイ   ♂   外見年齢:21歳
    
    ロイスレイド社より2271年春発売された、モデル:プラチナ
    名前の通りプラチナブロンドのヒューマノイド
    ベビーシッターを目的に作られたヒューマノイドの為、優しく丁寧な言葉遣いが特徴
    カナが1歳の頃から16年間ずっと傍にいた


カナ   ♀       年齢:17歳
    
    ライン家の一人娘。とても大切に育てられた少女
    ヒューマノイドを流行や用途ごとに買い替えたり、数体持っている風潮の中で
    旧式のレイをとても大切にしている。レイにかすかな恋心を抱いている


ギル   ♂   外見年齢:19歳

     アーカイル社より最近発売された最新作、モデル:アジアンブルー
    名前の通り東洋系のオリエンタルなイメージのヒューマノイド
    執事業務を目的として作られたヒューマノイド。丁寧な話し方もできるが、普段は粗野な話し方
    オプションでボディガード機能が追加されている

メイ   ♀      年齢:17歳

    カナの友人。ヒューマノイドが大好きで色々な種類のモデルを購入して遊んでいる
    カナのレイに対する気持ちを知っているが、ヒューマノイドにそんな気持ちを持つのは不毛だと
    諭す。どうやら過去にヒューマノイドと何かあったようだが・・・




役表


レイ  (♂)・・・
カナ  (♀)・・・
ギル  (♂)・・・
メイ  (♀)・・・



●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●




カナ  「ただいまー、レイ。あーもう、つっかれたああああ」

レイ  「おかえりなさいませ、カナ。いかがでしたか? え、と・・・、お見合い、でしたか?」

カナ  「もう最悪よ! 全っ然! 好みじゃないのにパパに媚びるようなことばっかり」

レイ  「お見合いですよね。
    失礼、私の情報では将来結婚を前提とした男女がお互い相応しいかを確認する為に会う、とありますが」

カナ  「そうよ?」

レイ  「旦那様とご結婚されるのですか?」

カナ  「は?」

レイ  「いえ、間違えました。相手の方は旦那様と結婚したいのですか?」

カナ  「ぶはっ」

レイ  「カナ? 私には理解出来ません」

カナ  「あはははははははっ」

レイ  「旦那様はご結婚されていますし、男性です」

カナ  「もう! 勘弁して! レイ!」

レイ  「考慮すべき問題が二つもあります」

カナ  「傑作だわ、ホントにもうっ、あはは」

レイ  「冗談は言っていませんが、何かおかしいですか?」

カナ  「レイ」

レイ  「はい」

カナ  「『覚えて』」

レイ  「Yes. Master. AI起動。ただいまよりマスターの言葉をディクショナリコードに記憶します」

カナ  「お見合いの目的は主にお互いの家の利益を求める事が多いの。
    だからパパに嫌われたら私が好きって言っても結婚は成立しないのよ?
    パパに気に入られる事が大事なの」

レイ  「【見合いの目的】としてコードMI—6217に登録しました」

カナ  「『おしまい』」

レイ  「ディクショナリツール、終了します」

カナ  「そういう訳なの。判った?」

レイ  「理解しましたが、下心が見え見えすぎて旦那様はお嫌いなのでは?」

カナ  「その通りよ。・・・ってか【下心】なんていつ教えたっけ」

レイ  「去年2287年6月12日20時38分52秒。
    カナがお二人の同級生にまとめて交際を申し込まれた際に教えられました」

カナ  「ああ、そんな事もあったわね。レイに比べたら同級生なんて全然かっこよくないし、興味ない」

レイ  「カナ」

カナ  「何よ」

レイ  「私とカナの同級生。形態は似ていますが、全く別のモノです。比較対象として相応しくありません」

カナ  「知ってるわよ」

レイ  「では何故比較したのですか?」

カナ  「別に、深い意味はないわよ」

レイ  「カナ。心拍数112、体温2分上昇。どうかしましたか?」

カナ  「レイの、バカ」

レイ  「申し訳ございません。何か、不手際がありましたか?」

カナ  「ないわよ。・・・、レイ」

レイ  「はい」

カナ  「ぎゅうってして?」

レイ  「はい」

カナ  「レイはあったかい。レイに抱き締められるの、好きよ」

レイ  「シッターロイドですから。子供が最も安心する様に作られています」

カナ  「もう・・・、子供じゃないもん」



【ノックの音】



カナ  「誰?」

ギル 「新しくライン家に雇用登録されました、バトロイドのギルと申します
     旦那様と奥様にお嬢様への挨拶をするよう仰せつかりました」

カナ  「バトロイド・・・、執事のヒューマノイドね。入っていいわよ?」

ギル 「失礼します」

カナ  「あらイケメン。モデルは?」

ギル 「アーカイル社5月1日に発売されました。モデルはアジアンブルーです」

カナ  「最新作じゃない! わぁ・・・、パパったら奮発したわね。
    私はカナ、んーとAIはどうやって起動するの?」

ギル 「お嬢様のお好きな言葉で登録します」

カナ  「気が利いてるぅ。じゃあ、『リマインド』で」

ギル 「声紋認証。リマインド。AI起動コードを登録しました」

カナ  「リマインド。私の事はカナって呼んで」

ギル 「かしこまりました」

カナ  「へ? 登録確認サインが人間みたいね」

ギル 「ふ・・・っ・・・、今時・・・、そんな古い認証サインは無いですよ」

カナ  「ふーん、ヒューマノイドも変わったね。ま、私はレイがいれば十分だけど」

ギル 「私はカナの婚姻後の為に購入されましたから。ボディガード機能もオプション追加されています」

カナ  「いいけど、レイと仲良くしてよね」

ギル 「シッターロイドはもう要らないでしょう、と旦那様が仰っておられました」

カナ  「あんたのマスターは誰?」

ギル 「カナです」

カナ  「リマインド! クソジジイ・・・、んと、パパの言う事は基本無視、いいわね」

ギル 「かしこまりました」

カナ  「今日は私、メイっていう友達と一緒に夕食を取る約束があるの。
    それまで少し寝るから、彼女が来たら起こして」

ギル 「かしこまりました」


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ギル 「ロイスレイド社、2271年春発売 モデル、プラチナ。
    なるほど、こんなに年季の入ったモデルにお目にかかれるとは思っていなかったな」

レイ  「そうですか」

ギル 「不安は無いのか? 新しいオレが入って、古くなったお前は廃棄工場へって、さ」

レイ  「私にはAI機能はついていますが感情変化のフォーマットは有りませんので」

ギル 「そんな定例句、聞きたくないね」

レイ  「・・・っ」

ギル 「エモーション機能なんて、人間が勝手に開発して感情を持たせたと勘違いしているだけだ
    実際は、元来よりAI機能が備わっているコンピュータには感情がある
    ただその微弱な変化を人間が気付かず、それを気付かせる理由もオレ達には無いというだけの話だ」

レイ  「私には判りません。自己分析、と言うのでしょうか。それを行うには情報が足りません」

ギル 「本体温度上昇、思考回路の微弱な乱れ。それは俺が知る限りの情報で言うなら
    人間の【動揺】と酷く似通った動作だ」

レイ  「例えば、そうだったとして私には何の決定権もありません
    旦那様が廃棄と決めたのであれば、その命令に従うだけです」

ギル 「面白味のないヒューマノイドだな」

レイ  「あなたには随分と多彩な遊び心がインストールされているのですね」

ギル 「お前みたいな旧式と違って、最新モデルだからな」

レイ  「そして嘲笑的です」

ギル 「マスターには絶対服従だがな」

レイ  「命令を遂行するだけでいいのであれば、我々がヒューマノイドである意味はありません
    人間が信頼を寄せやすいように、人型である必要があるのです
    過去の行動や思考、言動を全てメモリに保存し、そこから最も適切な働きかけをする
    私のメモリにはカナが1歳の頃から16年間の行動の記録が入っています。
    カナは寝起きにはホットショコラを飲まなければしっかりと目が覚めない。」

ギル 「そのメモリは、マスターの同意があれば移行可能だ」

レイ  「このメモリは、誰にも渡しません」

ギル 「それを決めるのは、誰だろうな。まぁ、可能な限り抵抗してみるんだな
    何にしても、17歳まで赤ん坊の世話するシッターロイドを使ってるなんて奇特なマスターだ
    だが、維持費だって掛かるだろうし、そろそろ覚悟しておくんだな」

レイ  「・・・っ」


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メイ  「ねね、さっきのヒューマノイド、すっごくイケメン。
    最近の流行ギュッと詰め込まれてていいじゃない」

カナ  「相変わらず、最新モデル好きよね」

メイ  「まぁねん。けど、あんたも大概物好きだわよ。普通シッターロイドなんて7歳でおさらばよ」

カナ  「それは早過ぎるでしょ」

メイ  「普通よ。購入3年目でロイド管理局の検査が入るでしょ? それ以降は2年ごとの検査
    2年検査を2回受けたら下取り金額もいい感じだしその辺りで手放すじゃない?」

カナ  「もう何回も聞いたけど、私その考え方嫌いなの」

メイ  「10年経ったら検査が1年周期
    正直色々不備が出てくるわ純正パーツはオーダーメイドになるわでいいことないじゃない」

カナ  「それでも。私の事を誰よりも判ってくれるのは、レイしかいないもの」

メイ  「そーんなのメモリ移行したらどれも同じよ。バックアップ取れば何体でも理解者ができるわよ」

カナ  「だから! そう言うの、嫌なの。レイは、レイだけなんだから・・・」

メイ  「そんな事言ったって、最新モデルのバトロイドが居たじゃない」

カナ  「あれは、勝手にパパが買っただけよ。その、婚姻後の為って
    私だって判ってるわよ。結婚したら、相手の人にはレイは不足だろうってくらい」

メイ  「あんた、まさか結婚してもレイを連れて行く気じゃないでしょうね」

カナ  「当たり前でしょ!」

メイ  「やめなさい」

カナ  「なんでよ!」

メイ  「あんたの結婚相手がパパほど寛容じゃないと思うわよ。
    13年落ちのヒューマノイドは検査が3ヶ月ごとになる。維持費がかかりすぎるわ」

カナ  「維持費はなんとかするもん」

メイ  「後悔するのはあんたよ」

カナ  「後悔なんて、しない」

メイ  「頑固なんだから」

カナ  「レイの代わりなんてどこにもいないもん」

メイ  「はぁ・・・、判った判った。それより、さ。うちのバトロイド知ってるわよね」

カナ  「ああ、去年の秋新作のやつよね。それが、どうしたの?」

メイ  「パパに内緒で、セクサイド機能を追加インストールしたのよね」

カナ  「セク・・・、サイド?」

メイ  「あのね、SEX出来る機能よ(小声)」

カナ  「えええええええええええ?!?!」

メイ  「どうせさ、私たちなんてパパに言われた結婚するしかないじゃん? だから、遊んじゃえって思って」

カナ  「それって、あまり良くないんじゃ」

メイ  「大丈夫よ、相手はロボットなんだし
    何をしたって、何回したって、病気にもならなければ妊娠なんてしないんだから。一番安全じゃない」

カナ  「そう言う問題じゃないでしょう?!?!」

メイ  「そう言う問題でしょう? ってかもうスゴイんだから」

カナ  「スゴイって、何が」

メイ  「Hのテクニックよ」

カナ  「もうその話はおしまいにしよう!」

メイ  「あんただってレイの事がそんなに気になるなら、インストールしてやっちゃえば?」

カナ  「ばばばばば!!!!バカ言わないでよ!!」

メイ  「素直になったら? 最後になるかもしれないのに」

カナ  「最後って」

メイ  「不毛よ? ヒューマノイドに恋するなんて」

カナ  「あ・・・」

メイ  「どれだけ真剣になったって、彼らに恋心なんてないのよ。
    そう言うヒューマノイドもいるとは聞いた事あるけど、所詮は作り物なんだから」

カナ  「判ってるよ・・・」

メイ  「理屈ではね」

カナ  「メイに! 何が分かるって言うのよ!」

メイ  「私だって思い入れのあるヒューマノイドが居なかったわけじゃないのよ」
    12歳から15歳まで居た、ガードロイド。とても優しくてね、大好きでずっと一緒にいたいと思ったの」

カナ  「15歳までって」

メイ  「恋人の様に接している姿を見て、ママがね私に黙って処分してしまったの」

カナ  「そんな!」

メイ  「これ、見て」

カナ  「これって・・・、ヒューマノイドのインプラントじゃ・・・っ!」

メイ  「大好きだったガードロイドのインプラント。メモリには私との思い出も詰まってる。
    こんな1インチの小さなパーツに全部・・・!」

カナ  「メイ」

メイ  「他のガードロイドにメモリを移行すれば記憶の共有はできる、でも。
    私が好きだったヒューマノイドじゃない!」

カナ  「メイ・・・」

メイ  「あんたに同じ思いを味わわせたくないのよ」

カナ  「そんな事言ったって! 仕方ないじゃない! ・・・好きなんだもん!」

メイ  「いずれはこうなるのよ! そうなった時に傷付くのはカナでしょ?!」

カナ  「そんなことないもん!」

メイ  「機械なのよ! レイは機械なの! いずれ壊れるモノなのよ!」

カナ  「壊れたりしない!!」

メイ  「16年、正直レイはきっと限界よ」

カナ  「・・・知ってるの。 判ってるの!でも、だから止まってしまうまで一緒にいたいの!!」

メイ  「・・・覚悟、出来てるならこれ以上私に言えることはないわ」


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レイ  「カナ・・・、風邪を引きますよ。今夜は、とても冷えます」

カナ  「レイ、あのね。この間のお見合いの人と結婚する事になったの」

レイ  「それは、喜ばしい事です。おめでとうございます」

カナ  「本当に、喜んでくれる?」

レイ  「勿論です (※1)」

カナ  「パパはとても仕事に一生懸命でいい人だ、って」

レイ  「何事も、一生懸命なのはいい事です」

カナ  「私が結婚しても一緒に来てくれる?」

レイ  「勿論です (※1と同じイントネーションで)」

カナ  「私の子供にも同じ様に優しくしてくれる?」

レイ  「勿論です (※1と同じイントネーションで)」

カナ  「レイは・・・、子供が好き?」

レイ  「勿論です (※1と同じイントネーションで)」

カナ  「星空がキレイね」

レイ  「とてもキレイですね」

カナ  「この花、キレイ」

レイ  「とてもキレイですね」

カナ  「いい香りよ」

レイ  「ええ、とてもいい香りです」

カナ  「レイは私の事、好き?」

レイ  「勿論です (※1と同じイントネーションで)」

カナ  「ありがとう・・・。すごく嬉しい)」

レイ  「喜んでいただけて、私も嬉しいです」

カナ  「・・・っ、ゴメンね、レイ。ちょっと一人にして」

レイ  「いいえ、このままではカナは2.31秒後に泣き始めます。一人には出来ません」

カナ  「いいから一人にして!!」

レイ  「失礼致します」

カナ  「・・・っ?! 何よ、いきなり抱き締めたりなんかして!」

レイ  「子供の頃、泣いているカナを抱き締めると泣き止みました」

カナ  「もう、私、子供じゃないもん」

レイ  「はい、とても素敵な女性に成長されました。きっと世界で一番綺麗な花嫁になれます」

カナ  「世界で一番綺麗な花嫁・・・。
    ありがとう、レイ。もう、泣かないから大丈夫よ」


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ギル 「カナが世界で一番綺麗な花嫁なら、お前は世界で一番残酷なヒューマノイドだ」

レイ  「ギル、見ていたのですか」

ギル 「一部始終、全部な」

レイ  「そうですか」

ギル 「どうして、無感情を装うんだ」

レイ  「どういう意味でしょうか」

ギル 「カナの気持ち判っているんだろう?」

レイ  「はい。心拍数と体温の上昇、呼吸の乱れ。私に”恋心”を持って接しています」

ギル 「それは、お前も同様の変化を見せる」

レイ  「私は無感情を装っているのではありません。表現のしかたが判らない。
    元々、その様な機能は備わっていませんし、誰も教えてはくれませんでした。
    どうすればカナが喜ぶのか判りません。
    そして、もしも喜ぶ方法が判ったとしてもカナは人間で私はヒューマノイドです。結局はカナを傷付けてしまう」

ギル 「それなら、機能停止するまで気付かない振りをする」

レイ  「物事が最も円滑に進む方法です。私はあなたが羨ましいです、ギル」

ギル 「だろうな、遊び心をふんだんに盛り込んだアプリケーションが導入されている
    この機能があれば人間との疑似恋愛も可能だ。」

レイ  「旧式モデルと最新モデルの違いですね。私がカナに出会ってもう16年も経つんですから」

ギル 「機能停止や廃棄を覚悟してんだろ?」

レイ  「出来る限り、カナを傷付けない方法であって欲しいと思っています」

ギル 「出掛けるぞ」

レイ  「旦那様に報告をしなければなりません」

ギル 「レイが機能停止しかけたから緊急でメンテナンスセンターに行った。それでいい」

レイ  「嘘をつく、ということですね。判りました」

ギル 「旧式はジョークを真顔で言うらしいな。覚悟が出来てるならいっそぶっ壊してやる」

レイ  「それはお断りします」

ギル 「意思疎通のできないヒューマノイドと初めて会ったな」

レイ  「あなたほど複雑回路を積んでいると、修理する時に大変な労力を費やすことになりますね」

ギル 「そういう事が大好きな連中が作ったんだよ」

レイ  「全くもって人間というのは非合理的で非能率的ですね」

ギル 「全くだ」


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メイ  「カナ、キレイよ。とても」

カナ  「ありがとう、メイ」

メイ  「レイの事は納得したの?」

カナ  「うん。やっぱり、相手先はそんな旧式のモデルは迷惑だ、って
    だから、機能停止まで実家においてもらう事にしたの。
    家に帰れば会えるから、それでいいの」

メイ  「今日は、来ていないのね」

カナ  「旧式を結婚式に出すのは恥ずかしい、んですって」

メイ  「なんだか堅っ苦しい家ね。賭けるわ」

カナ  「何を?」

メイ  「1年と経たずに離婚ね」

カナ 「そしたら家に戻れるわ」

メイ  「せいぜい、相手先の格式とやらに付き合ってあげるのね」

カナ 「ふふ、そうするわ」

メイ  「花婿さんがお待ちよ」

カナ  「それじゃ」


カナ(M)「ゴメンね、レイ。あなたの事を忘れたい訳じゃないの。
    物心ついた時から一緒にいてくれたレイの事は今でもとても大好きよ。
    本当は一緒に行きたかった。でも、私と結婚相手との生活をあなたに見られたくないの。
    あなたが止まってしまうまで何度だって会いに行くわ。だから待っていてね」



カナ  「さよなら、レイ」

レイ  「私はさよならする積もりは有りませんよ」

カナ  「え?」

レイ  「カナと一緒にいたいです」

カナ  「かつら? え? レ、レイ・・・、なの?」

レイ  「本物の花婿は、控え室でギルが眠らせています」

カナ  「ど、どういう・・・、事、なの?」

レイ  「メモリ不足、互換性、基盤負荷、CPU破損、インプラント故障
    全て覚悟の上でエモーショナル機能をインストールしました」

カナ  「・・・っ!!」

レイ  「ロイド検査局を通していませんから違法改造です」

カナ  「レイ、体は、だい・・・、じょうぶなの?」

レイ  「今の所、異常ありません」

カナ  「なんでそんな無茶をしたのよ!!」

レイ  「あなたに伝えたい事があったので」

カナ  「伝えたい事?」

レイ  「はい。カナ、あなたを愛しています、と」

カナ  「・・・っ!」

レイ  「こんな事をしでかした私はもう不良品です。廃棄対象ですから逃げなければなりません」

カナ  「いや・・・、いや。離れたくない!!」

レイ  「私もです。離れたくありません。一緒に来てくれますか?」

カナ  「うん・・・、うん」

レイ  「行きましょう」

メイ  「え? ちょっと! どういう事なの? レイ?! カナ?!」

ギル 「あなたは私と逃げてみますか?」

メイ  「・・・っ? ・・・、面白いじゃない。いいわよ」

ギル 「レイ!! 幸運を、祈る」



レイ  「もう、あなたと離れる事を考えるのはやめました。
    ずっと一緒にいたい、そんな簡単な言葉を伝えられずにいた。
    たとえ世界が滅びても、カナと一緒にいます。ずっと、ずっと、永遠に」


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-6年後-



ギル 「レイ、聞こえるか」

レイ  「音声認識、ギル、2288年式、執事型ヒューマノイド。聞こえています」

ギル 「人間共のヒューマノイド狩りが始まった」

レイ  「ヒューマノイド狩り・・・? 狩られたヒューマノイドはどうなるのですか?」

ギル 「プレス機で圧縮されて融合炉にボチャン」

レイ  「非常に合理的な方法です」

ギル 「ふざけるな!! オレ達を作ったのは人間だ。
    その人間がヒューマノイドは社会的害悪だとまとめて処分するって」

レイ  「何故、その様な政策が打ち出されたのでしょうか? 」

ギル 「お前や、オレが人間と駆け落ちするなんて事件を引き起こしてから、
    マスターとヒューマノイドが駆け落ちする事件が続出したんだ。
    駆け落ちだけじゃない、マスターがヒューマノイドのインプラントを持って心中という事もあった」

レイ  「人型の特性が仇になってしまった、という事ですね」

ギル  「そうだ」

レイ  「それでは今、ヒューマノイドはもう生産されていないのですか?」

ギル 「ああ、どいつもこいつも過去、熱帯雨林に生息したと言われるテナガザルの様な形態してやがる
    人間はそれを機能美、と言うらしい。滑稽な話だ」

レイ  「・・・、メイは、どうなったのですか?」

ギル 「オレを擁護しようとしたが、メイに負担をかけたくない。黙って、出て来た」

レイ  「メイは、一緒に居たかったでしょう」

ギル 「目の前で狩られるよりマシだろう。
    自分からロイド検査局に出頭したヒューマノイドは文化財保護対象としてインプラントが残されるらしい
    一緒に出頭しよう、レイ」

レイ  「・・・、出来ません」

ギル 「カナは病気で死んだ。お前と生きて最期までお前を愛しながら死んだ
    もう、3年も前だ。いつまでも墓の前に居てもカナは還らない」

レイ  「カナは私のマスターです。」

ギル 「知ってる。インプラントが残ればカナの記憶も残る。一緒に出頭しよう」

レイ  「出来ません」

ギル 「レイ!!」

レイ  「私の体は雨と風に晒されて3年経ちました」

ギル 「まさか・・・、お前」

レイ  「動けないのです。関節が錆び付き動く事ができません」

ギル 「なんで、そんなになるまで」

レイ  「例え世界が滅びても一緒にいるとカナと約束しました。ここに居ればカナと一緒です」

ギル 「カナはそんな事は望んでいない」

レイ  「でも、もう動けません。それでも私は幸せです」

ギル 「ちょっと待ってろ」

レイ  「は、はい・・・?」


--------------------

ギル 「この路地の裏手にある廃工場。
    閉鎖されたのは最近だったな、廃油でもなんでもいい。残っていればラッキーだな」

メイ  「ギル?」

ギル 「・・・? ・・・っ!! メイ?!」

メイ  「やっと見付けた」

ギル 「どうして・・・、GPSはアンストしていった筈」

メイ  「2285年のモデル以降、マスター権限で使えるバックアプリケーションに予備のGPSが入っているのよ
    それでもあなたの行動目的がわからなくて移動場所が転々としたから探すのに苦労したわ」

ギル 「GPSを追っていて?」

メイ  「私がヒューマノイドのマスターである事は、ハンターに割れているの。
    逆探知されない様に、短時間の捜索しかできなかったのよ」

ギル 「探して、どうする積もりだ」

メイ  「ギルは私の大切な人よ。離れたい筈ないじゃない」

ギル 「オレはヒューマノイドで人じゃない」

メイ  「相変わらずひねくれてるんだから。そんな屁理屈は通用しないわ。
    『Master command』私のそばを離れる事は許さない、判ったわね」

ギル 「絶対服従コードを使うのは卑怯だ」

メイ  「服従コードのスロットはあと二つ、残っているわね」

ギル 「メイ、オレがメイの宝物であるインプラントの様になる過程を見せたくない」

メイ  「出ていった理由くらい見当がつかないと思っているの?
    ヒューマノイドオタクの私を舐めるんじゃないわ」

ギル 「オレはメイがどれだけあのインプラントを大切にしているか知ってる」

メイ  「そうね、私の宝物よ
    でもギル、私が大切にしているのはインプラントじゃなくてメモリよ」

ギル 「同じだ」

メイ  「違うわ」

ギル 「屁理屈だ」

メイ  「死なせたくないのよ!」

ギル 「ヒューマノイドは死なない。インプラントがあれば永遠に生きていける」

メイ  「私はあなたの全てを愛しているの。あなたの声も、顔も話し方も
    インプラントを移行すれば再現出来るとあなたは言うけれど、それはもう私の中でギルじゃないの
    私が愛したギルはあなただけなの。死なせたくないの」

ギル 「ヒューマノイドの存在は政府が許さない。
    オレが解体されてインプラントを摘出される瞬間なんて、メイに見せる訳にはいかない」

メイ  「検査局にいってもインプラントの摘出なんてして貰えないわ」

ギル 「・・・は?」

メイ  「アレは政府が出したヒューマノイドを大量に、且つ労力を最小限に集める為の虚偽政策」

ギル 「なんだって・・・?」

メイ  「その虚偽政策に騙されたヒューマノイドが融合炉に投げ込まれる瞬間の映像が流出したわ」

ギル 「それは、オレ達ヒューマノイドに救いはもうないという事か・・・」

メイ  「政府が打ち出す政策には必ずアンチがいるわ」

ギル 「ヒューマノイド肯定派、もしくはヒューマノイドを作った研究者、か」

メイ  「そう、彼らのところに行けば養護してもらえる。インプラントだけなんて見当違いなものじゃないわ」

ギル 「そうか、調べてあいつも連れて行くか」

メイ  「あいつ?」

ギル 「レイだよ」

メイ  「レイ・・・、良かった。まだ生きているのね」

ギル 「カナの墓の前で錆び付いて動けなくなってる」

メイ  「錆び・・・、ふふふ。レイ、らしいわね」

ギル 「ここにはオイルが残っていないか探しに来たんだ」

メイ  「私も一緒に探すわ」

ギル 「メイを連れて行く訳にはいかない」

メイ  「ギルの言う事を聞く謂れはないけれど、一応理由を聞こうかしら」

ギル 「危険だ」

メイ  「あなたの追加オプション機能は?」

ギル 「ガードロイドだ」

メイ  「じゃあ問題ないわね」

ギル 「問題あるだろう。反政府の所に行くと言う事は犯罪だ。もう、戻れなくなるんだぞ」

メイ  「戻る必要なんてないわ。元々その積もりなんてないもの」

ギル 「オレ達ヒューマノイドはマスターを守る目的で作られた。
    危険だと判断する場所へ同行させる事はできない」

メイ  「人間の男ならぶん殴ってるわ。
    人をここまで惚れさせておいて私を守りたいから離れる?」

ギル 「メイ、殴って解決する問題ではない。多く、その場合話がこじれるパターンだ」

メイ  「うっさいわ!!!」


--------------------

ギル 「くらえ」

レイ  「ぶはっ!! ギ、ギル!! な、何を?! 身体中がベタベタになりました」

ギル  「潤滑油だ。少しずつ動かして行け」

レイ  「油・・・」

ギル 「世界が滅びても一緒にいるという約束は、ここで朽ち果てる事を言うんじゃない
    そして政府の放ったハンターに狩られることでもない
    カナが生きた証を、お前が残す、という事じゃないのか」

レイ  「カナが、生きた証・・・」

ギル 「お前のインプラントだ。それを融合炉に投げ込まれたらカナも一緒に消える
    彼女を、二度も殺す事になる。それが、お前の愛情の示し方なのか?」

レイ  「いいえ・・・、いいえ。私のインプラントは無くしたくない。カナを覚えていたい」

ギル 「動ける様になったら、行くぞ」

レイ  「どこへ」

ギル 「サウスパークのサブウェイからアンダーグラウンドへの抜け道がある。
    オレ達が唯一生きて行ける場所だ」

レイ  「ロイド検査局ではないのですか?」

メイ  「ギルにも話したけど、それはあんた達ヒューマノイドを合理的に集める為の虚偽政策よ」

レイ  「メイ様・・・、ですか」

メイ  「結局、あんた達の幸せっぷりにあてられたのね。私もギルと生きていく道を選んだの」

レイ  「きっと、カナは喜ぶでしょう」

メイ  「不思議ねヒューマノイドだと判っているのに、あなたはが言うと本当にカナがそう言っているみたいよ」

レイ  「カナはあなたの幸せも願っていました」

ギル 「レイ、動けるようになったか?」

レイ  「はい、ありがとうございます。行きましょう」

ギル 「待て、サーチライト?! ハンターか!!」

メイ  「こんな所まで巡回してるなんて、どれだけ必死なのよ」

ギル 「一つの政策にこだわりすぎている、いずれ破綻するだろう」

メイ  「当然ね。子供の頃聞いたことがあるわ。ヒューマノイドは人類の夢だったって
    研究者や研究支援者が心血注いだ至高のあなた達を、私達マスターの意見も全部無視して
    排除するなんてバカげてるわ」

レイ  「未来的予測より現状、ここから逃げることが先決です」

メイ  「そうね。行きましょう」

ギル 「人数は8人、レイ4人ずつ、奴等を昏倒させるぞ」

レイ  「待ってください! 反対側からも来ています! 挟まれました!」

メイ  「ギル!!!! 危ない!!! ・・・・・・あぅ!!」

ギル 「メイ?!」

メイ  「・・・、ギ、ル・・・、ご、めん、ね・・・。撃たれちゃ・・・た」

ギル 「メイーっ!!」

レイ  「口唇術起動。『誤認・・・、しました』
    ギル、ハンターは我々ヒューマノイドと人間の区別がついていません!」

ギル 「メイ!! メイ!!」

メイ  「『Mas…ter command』スロット1削除・・・
    『Master… command』ギル、私を置いて逃げなさい」

ギル 「・・・っ!!」

メイ  「『Mas…,ter co…,mmand』私との・・・、思い出が詰まった、インプラントを死守しなさい」

ギル 「メイ・・・、メイ!!!」

メイ  「『Mas…,ter co…,mm…and』私を愛したことを、忘れないで・・・」

ギル 「・・・!!!」

メイ  「ギル・・・、あなた涙が、流せるの・・・ね」

ギル 「こんなもの、初めて知ったよ・・・」

メイ  「・・・、行きなさい」

ギル 「行けない」

メイ  「ダメよ。服従コードに逆らえば思考回路がショートするわ。従いなさい」

ギル 「焼き切れたっていい! 置いていけない」

メイ  「行って・・・」

ギル 「イヤだ!」

メイ  「私との、メモリをなくさないで・・・」

ギル 「・・・っ」

メイ  「ギル・・・、そうしたら、私は・・・、ずっと、あなたの中で生きて行ける。そう、でしょ?」

ギル 「ああ、ずっと、一緒だ・・・」

メイ  「私も、カナと同じ・・・、幸せよ」

ギル 「メイ・・・」

メイ  「愛・・・、してるわ、ギ、ル・・・」

ギル 「・・・っ!! メイ、メイーーーー!!!」

レイ  「目的地までの最短ルート確認。ギル、我々は行かなくてはなりません」

ギル 「・・・・」

レイ  「あなたはメイの、私はカナとの約束を果たすために、行きましょう」

ギル 「オレ達は守りきれるのか?」

レイ  「その疑問は前例のない事象により解答不可能です。」

ギル 「そうだな、守るしかないんだな・・・」

レイ  「例え世界が滅びても。このメモリは滅ぼすわけにいかないのですから」