Psychopath ♂×3 ♀×2 / 白鷹




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所要時間:35分程度
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●登場人物●



神崎 亨 (かんざき とおる)    ♂ 16歳

    私立進学校の特進科に通う真面目な優等生。志望進路は経済学部だが現社が苦手
    美奈と付き合っている


須藤 涼子(すどう りょうこ)    ♀ 28歳

    亨の通う私立進学校の教師で亨の担任。担当教科は世界史と現社
    大変な美人でスタイルもいい為、ビッチの噂があるが結構男嫌い


安藤 美奈(あんどう みな)    ♀ 17歳

    亨の彼女。可愛らしく学校でも評判のいい美少女


樋口 優斗(ひぐち ゆうと)     ♂ 17歳

    真面目でがり勉で気が弱いが成績は優秀


稲垣 和仁(いながき かずひと) ♂ 16歳

    基本はチャラ男。がイケメンで成績も優秀
    自他共に認める模範的優等生。自分に過大な自信を持っていて人に対しては嘲笑的



役表


亨    (♂)・・・
美奈  (♀)・・・
須藤  (♀)・・・
樋口  (♂)・・・
稲垣  (♀)・・・



●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●




稲垣 「か・・・、んざ、き・・・。おま、え・・・」

亨   「へぇ。すげえじゃん、人間って5階のマンションから落ちても即死しない事もあるんだ
    まぁ、どうせすぐ死ぬんだろうけど、さ」

稲垣 「ぐ、ほ・・・」

亨   「なぁ、今って苦しいの? 死ぬ前ってドーパミンとか出ちゃって結構苦しくないって聞いた事あんだけど」

稲垣 「ぁ・・・、が・・・」

亨   「あ、救急車を呼んでやるなんて期待しないでくれよ?
    きっと間に合わないし、俺そもそもお前を助ける積もりも義理も無いから」

稲垣 「ぐ・・・、ぐぼぉっ!」

亨   「ぅおっと、きったねっ、なんか色々吐きやがった
    取り敢えず、この手に握ってるもの返してくれよな、余計な証拠とかお前には関係ねぇだろ?」

稲垣 「・・・ぁ・・・」

亨   「じゃあな、稲垣」



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美奈 「やったやったやったーー! 亨すごいじゃん!
    年度末最後の期末テスト堂々の第1位! おめでとう」

亨   「美奈」

美奈 「何よ、浮かない顔しちゃって。嬉しくないの?」

亨   「いや、だってさ。俺の実力じゃないし」

美奈 「はぁ? 亨の実力でしょ? 彼女のあたしだって自慢できるし!
    イケメンで秀才の彼氏。女子からの視線は痛いけどね」

亨   「違うだろ!」

美奈 「・・・、亨」

亨   「ごめん」

美奈 「元首席の稲垣君が自殺しちゃって
    その繰り上がりっていうのが引っ掛かってるの?」

亨   「そうだよ。俺自身の点数が上がった訳じゃないし
    3位の樋口だって僅差(きんさ)で追い上げて来てる」

美奈 「樋口君がり勉だもんね。けど、亨の1位は変わらないでしょ? 素直に喜べばいいのに
    年度末の試験結果で来年度の学費免除額だって変わって来るんだもん
    1位は全額免除でしょ?」

亨   「そりゃ、それは有りがたいよ」

美奈 「亨は今まで苦労してきてるじゃない
    両親事故で亡くしちゃっておじいちゃんやおばあちゃんの年金の中から
    少ない仕送りで生活費足りないからバイトと勉強の両立でさ
    その苦労が報われたって事なんだからさ」

亨   「だからってバイトを辞められる訳じゃねぇよ?」

美奈 「えええーーー?! なんで?
    せっかくあたしとの時間も増えるって喜んでたのに!」

亨   「後先考えずに短慮で辞める事なんて出来ねぇよ
    樋口だって必死だろうし2位に下がったら免除額1/2になるんだしさ
    私立の特進科って学費高ぇんだぞ?」

美奈 「えーっと、3位が1/4だっけ?」

亨   「そう。だからバイトは辞められない
    美奈には時間作ってやれなくて悪いけどさ、生活掛かってんだ
    それに、やっぱ稲垣の自殺ってのが素直に喜べない一番の理由」

美奈 「亨は真面目過ぎ。でも稲垣君なんで自殺なんてしたのかな?
    勉強のし過ぎでノイローゼ、とかかな?」

亨   「稲垣はノイローゼになるような性格じゃねぇよ」

美奈 「ねー、頭悪そうなのに成績トップだもんね。イケメンだけど」

亨   「見た目で判断するなよ。影で努力してるかもしれないだろ?」

美奈 「・・・、で、ノイローゼ」

亨   「だからノイローゼから頭を切り離せ
    あ、俺、須藤先生に呼ばれてるんだった」

美奈 「須藤って、亨のクラスの担任の?」

亨   「うん」

美奈 「あたし、あの先生嫌い」

亨   「なんで? 現社と世界史の先生だから美奈も授業あるだろ?」

美奈 「だって! 生徒食いって話だよ?! 有名なんだから!」

亨   「は? 何それ」

美奈 「確かに美人でスタイルいいけどさ、何人もの男子生徒と関係があるって
    その、エッチな方の・・・」

亨   「なんだそりゃ?」

美奈 「亨イケメンだし目ぇ付けられたんじゃないの?」

亨   「ふはは・・・、アホ臭ぇ。んな訳ねぇじゃん
    須藤先生めっちゃ厳しい先生だぞ?」

美奈 「だって! 胸だって大きいしさ!」

亨   「大体職員室で何が出来るっていうんだよ
    じゃな、また後でな」

美奈 「むぅー、判った。待ってるからね!」



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須藤 「神崎君、今回の期末で首席だからって浮かれたりしてないわよね」

亨   「浮かれてる様に見えますか?」

須藤 「見えないわね。点数はあまり芳しく無いわ
    それは、自分でも判っているわね」

亨   「はい。ケアレスミス多発で中間より85点マイナス
    順位が落ちなかったのは運だと思います」

須藤 「加えて現社の論理は最悪
    経済学部志望でコレはかなりマズイわ」

亨   「判っています」

須藤 「担任の私の担当教科が最悪ってのはどういう事かしらねぇ」

亨   「俺、自分でも判ってるんですけど暗記ものが苦手で」

須藤 「みたいね。コレは特別授業が必要ね」

亨   「は?」

須藤 「明日土曜日、私の家に来なさい。住所はこのメモに書いてあるわ」

亨   「え、ちょ、それは・・・!!」

須藤 「教育的指導よ。いいわね」



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亨  「美—奈、何ぶすくれてんだよ」

美奈 「教育的指導って何」

亨   「知らねぇよ」

美奈 「んもーー!! 先生の家に行くって!!
   絶対Hな事するに決まってるじゃんかー!!」

亨   「へ、偏見だろ」

美奈 「亨だって悪くなさそうじゃん! デレデレしちゃってさ」

亨   「そ、そ、そ、そんな事ないって」

美奈 「ドエロ!! もう知らない!!」

亨   「あ、ちょっ! 待てって! 美奈! 美奈ってば!」



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須藤 「いらっしゃい、神崎君」

亨   「し、失礼します」

須藤 「やーね、職員室じゃないわよ。お邪魔します、でしょ」

亨   「お邪魔します。
   せ、先生。胸元、開き過ぎじゃないですか?」

須藤 「自宅でまで堅苦しい服装してられないわよ」

亨   「せ、先生・・・、距離、近い・・・っ
   教育的指導って」

須藤 「ふーー・・・っ」

亨   「み、耳っ! 耳に息を吹き掛けないで下さい!」

須藤 「2008年11月15日、ワシントンで開かれたサミットの議題は何?」

亨   「へ? あ・・・、へ?」

須藤 「同年9月におこった、リーマン・ブラザーズ
   アメリカの投資会社の倒産に端を発する、世界的金融危機
   いわゆるリーマンショックに対する金融サミットよ」

亨   「え、あの・・・っ、え? え?」

須藤 「ふふ・・・、なーにを、期待してきたのかしら?
    取り敢えず、そこのソファに座んなさいな」

亨   「は、はい・・・。なんだよ、この意地の悪さ」

須藤 「何か聞こえたわねー。ま、いいわ。
    じゃあ、単刀直入に言うわね」

亨   「はい」

須藤 「稲垣君は自殺じゃないわ」

亨   「・・・、それを、言う為に呼んだんですか?」

須藤 「そ。職員室で出来る話じゃないでしょ?」

亨   「なんで、俺に言うんですか」

須藤 「まぁ、聞きなさい
    私は担任として事情聴取と言う名の取り調べを受けたのよ」

亨   「取り調べ、って・・・
    それは、事故でもないという事ですか?」

須藤 「そういう事。稲垣君のマンションは5階
    死亡の原因は墜落時に於ける全身骨折などによる内臓の圧迫死
    けれど、墜落時の衝撃とは明らかに異なる
    後頭部を鈍器で強打された跡があったらしいわ」

亨   「先生」

須藤 「なあに?」

亨   「コンプライアンス条例とかに反するんじゃないんですか? それ
    迂闊に俺なんかに話して大丈夫なんですか?」

須藤 「大丈夫、と言うより話す必要がある」

亨   「どうして」

須藤 「ねぇ、神崎君。あなた稲垣君の死亡時刻、どこにいたの」

亨   「警察の真似事ですか? サスペンスドラマに毒され過ぎです
    俺はやっていません」

須藤 「そんな事聞いていないわ。どこにいたの?」

亨   「家で勉強していました」

須藤 「稲垣君の死亡推定時刻、先生まだ言っていないわよ?」

亨   「・・・っ」

須藤 「洞察力と現状認識不足。神崎君の欠点ね
    1月26日、20:16分、あなたは稲垣君のマンションの敷地内にいた」

亨   「なんでそんな事を言いきれるんですか」

須藤 「見たからよ」

亨   「え」

須藤 「稲垣君のマンションは私の帰宅経路なの
    渋滞で停止中に稲垣君のマンションで周囲を気にしつつ敷地内から出て来る
    神崎君を見たの。明らかに挙動不審だった。何をしていたの」

亨   「・・・っ、稲垣の墜落死は知っていました! けど、俺じゃありません!」

須藤 「死亡事故現場にいたからあなたを疑っている訳じゃないわ
    それでも近い内に事情聴取を受けるでしょうね
    神崎君には稲垣君を殺害する動機がある」

亨   「それは・・・っ」

須藤 「ここで先生に何を隠してもいいわ
    でもこれだけは心に留めておきなさい
    神崎君、あなたは容疑者よ」



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樋口 「あ、安藤さん。今日は、親が帰って来るのが遅いから・・・
    その、誰にも、話を聞かれたりしないよ」

美奈 「うん。良かった。話できる時間が出来て
    へぇ、樋口君の家って結構広いんだね。1階に部屋があるんだ」

樋口 「あ、安藤さん。な、何の用かな?
    親がいないって言っても僕勉強しないといけないから
    余り長い時間は困るんだ」

美奈 「ホンート、がり勉なんだね、息苦しくない?
    まーね、あたしだって余り長い時間一緒にいたら亨に怒られちゃう」

樋口 「よ、用事を」

美奈 「あー、もう。はいはい。あのね、あたし見たんだ」

樋口 「みた、って・・・。何を」

美奈 「稲垣君が死んだ日。彼のマンションから慌てて出て来る樋口君、を」

樋口 「・・・っ、そ・・・、や、あの、あれは」

美奈 「ねぇ、あれ、何してたの?」

樋口 「あれは! あいつが悪いんだ! 稲垣が!!」

美奈 「稲垣君が悪いってどういう事?」

樋口 「稲垣が死んだのは稲垣自身のせいなんだ!」



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稲垣 「樋口ー・・・。何の用だ?
    俺さぁ、お前みたいなキモいがり勉オタクと一緒にいるの嫌なんだよ
    辛気臭いのが移っちまうだろ?」

樋口 「稲垣君、君不正してるだろ」

稲垣 「は?」

樋口 「今回も、前回のテストもだ!」

稲垣 「樋口ぃ、お前何言っちゃってくれてんの?
    成績で俺にかなわないからって言い掛かり着けようとしてんの?」

樋口 「前回のテストで見掛けたのは偶然で今回は確認の為に見たんだ!
    テストが終わった後、カンニングペーパーを焼却炉に放り込むのを!」

稲垣 「バカか? お前
    俺は要らないルーズリーフを棄てただけだ」

樋口 「嘘だ! そんなの教室のごみ箱に捨てれば済む話じゃないか!
    わざわざ焼却炉まで捨てに行くっておかしいだろ!」

稲垣 「お前さ、樋口。すっげぇ面倒臭い奴だな。鬱陶しいわ」

樋口 「学校で、特待条件の判断基準になるテストで不正を働いて
    権利を持って行くなんて僕はそんなの許さない!」

稲垣 「あー、そういや樋口、お前も俺と同じ大学の理工学部志望だっけ
    ウチの学校の推薦枠一つしかねぇもんな?
    そんで言い掛かり着けて俺を引きずり落として自分がその枠を取りたいって魂胆?
    成績じゃ俺にかなわねぇから。見え見え過ぎて気持ち悪りぃよ」

樋口 「そうだよ」

稲垣 「あ、ははははっ! へーぇ、認めちゃうんだ、それ
    でも、残念だなぁ。お前には荷が勝ち過ぎるわ」

樋口 「カンニングの事を先生に言うよ」

稲垣 「教師がさー。俺とお前どっちを信用すると思う?」

樋口 「なんだって?」

稲垣 「あー、俺ね。正直首席に付随してる・・・、えーっと、授業料の免除?
    そういうの要らねぇんだわ」

樋口 「どういう事だよ、それ」

稲垣 「見て判るだろ? 俺んち金持ちなのよ
    自由自適な勉強空間の確保ってやつでマンション1個ポーンと買って貰えちゃったりする」

樋口 「それと信用問題は別の話だろう?」

稲垣 「地獄の沙汰も金次第って、お前知らないの?」

樋口 「まさか」

稲垣 「そう。そのまさか。正味3位はだてじゃねぇなあ
    いい洞察力持ってんじゃん。お利口さんお利口さん」

樋口 「教師を買収しているのか!」

稲垣 「正確には入学時に寄贈金をたんまり積んだんだよ
    私立だからなぁ、結構なんでもありなのよ
    そんな立場にある俺を誰が疑うって?」

樋口 「だったら!別にカンニングまでして首席を取る意味なんてないじゃないか!」

稲垣 「判ってねぇなぁ、推薦枠は別なんだよ
    俺らの志望先は成績の他にも授業態度や学校生活なんかの内申も考慮の範疇な訳
    親の面子もあるし俺は優等生である必要がある。俺はそれを守ってんの」

樋口 「だったらカンニングなんて汚点以外の何物でもないじゃないか」

稲垣 「じゃあ、密告れよ。密告ってみろよ」

樋口 「あぁ、言ってやるよ! 注意してやめるなら黙っていてあげようと思ったけど
    反省もしない改めないっていうなら先生に言う」

稲垣 「鏡見ろよ、樋口」

樋口 「?! 何言ってるんだよ」

稲垣 「信用なんて印象でどうにでも左右されんだよ
    毎日の勉強で疲れてんだなぁ、樋口、お疲れさん
    目の下のクマすごいぜ? ボッサボサの髪に顔色悪くてな
    お前なんかが何言ったって勉強疲れによるノイローゼの戯言に取られるだけだぜ?」

樋口 「そんな事は無い! 公正な先生だっている筈だ!」

稲垣 「一人二人いたからなんだっての。多勢に無勢、諦めろっての」

樋口 「神崎だってそんな不正許したりしない」

稲垣 「あー、見られたのが神崎だったらちょっと不味かったよな
    まぁ、お前でよかったよ、樋口」

樋口 「ふざけるな!」

稲垣 「ふざけてんのはお前の方だろ? あ? 樋口。3位は3位。
    お前はセンター試験で拾ってくれるどっかの三流大学出て三流の仕事について
    さえない人生送るようになってんの」

樋口 「稲垣・・・、おま、え」

稲垣 「何もかもが選ばれた俺とは違い過ぎんだよ
    あー、お前如きに熱くなり過ぎちまったぜ。空気入れ替えるか」

樋口 「僕は・・・、稲垣。君を許さない!」

稲垣 「で? どうするって? がっ!!! ひ・・・、ぐち、おま・・・、がっ!」



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美奈 「で、その干支の置物で殴って来ちゃったんだ
    持って帰って来ちゃったの? あーぁ、血が付いてる」

樋口 「でも、だけど、僕は飛び降りなんか知らない!
    本当だ、安藤さん! 信じて!」

美奈 「起き上がってベランダの手すりに捕まった瞬間にバランス崩して落ちちゃったのかな?
    あ、あたし別に知りたかっただけだから誰にも言わないし安心してよ」

樋口 「ほ、本当に?」

美奈 「言ってあたしに何のメリットがあるの?」

樋口 「ありがとう」

美奈 「ずっと眠れなかったんだねー。辛かったんでしょ?
    何となくそんな気がしてて、お守り買ってきたんだよね」

樋口 「お、お守り?」

美奈 「悪夢から守ってくれるお守りとかそういうやつ?」

樋口 「え、と・・・。ありがとう? でも、なんで?」

美奈 「なんで、って・・・、なんでだろうね、えへ
    ちょっと、樋口君の事気になってるの、とか女子に言わせる?」

樋口 「安藤さん・・・、だって、神崎と付き合ってる筈だろ?」

美奈 「そろそろ潮時かな、って・・・。軽蔑する? 樋口くん」

樋口 「いや、その・・・」

美奈 「ふふ、あ、これ軒下に吊るすやつなんだけど、はしごあるかな?」

樋口 「あ、あぁ、うん」

美奈 「これで、悩みがなくなると良いね」


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亨   「先生!」

須藤 「いらっしゃい、神崎君。何か教えて欲しい事でもあった?」

亨   「なんでそんな呑気にしていられるんですか!」

須藤 「神崎君にはとんでもない大事件よね。先生のマンションに駆け込むくらい」

亨   「当たり前じゃないですか! だって」

須藤 「樋口 優斗が自殺をするなんて、稲垣 和仁に続いておかしいじゃないですか」

亨   「先生・・・」

須藤 「神崎君、そこのテーブルに置いてある箱、開けてごらんなさいな」

亨   「箱? 宅急便ですか? ・・・っ! これ! 差出人が!」

須藤 「樋口君からよ。ご丁寧に宅急便の送付用紙に電子プリントして。昨夜遅くに届いたの」

亨   「これは、干支の置物、とルーズリーフ?」

須藤 「ルーズリーフには稲垣君を殺したのは自分だって書いてあるわ
    その干支の置物は稲垣君を殴った鈍器」

亨   「樋口が・・・、まさか」

須藤 「どう思う?」

亨   「違う・・・。何かが、絶対おかしい・・・」

須藤 「そうね、遺書を書いて自殺するなら何も先生の所へ送り付ける必要はない」

亨   「誰かが意図的に送り付けたという事ですか?
    でも遺書が、『僕は衝動的に稲垣を殴ってしまった。突き落した』って

須藤 「その字は間違いなく樋口君の字よ。でもね、不自然だと思わない?」

亨   「・・・、先生、鉛筆借りられますか?」

須藤 「どうぞ」

亨   「・・・、先生、これ
    不自然に空欄のある『突き落した』の前後を塗りつぶしました
    消しゴムで消しても筆圧の跡で何が書いてあったか判ります」

須藤 「『でも突き落したりなんかしていない』か」

亨   「樋口がマメな性格で日記をつける癖がある事は知っています」

須藤 「つまり、これは日記の一部を誰かが改竄(かいざん)して遺書に見せ掛け先生に送り付けた
    という事ね」

亨   「真犯人が早急に第3者に樋口が罪の意識に苛まれて自殺したと知らせる必要があった
    という事になりませんか?」

須藤 「そうね。取り敢えず神崎君、悪いけど隣の部屋に隠れて一切喋らないでくれる?」

亨   「え、どうして」

須藤 「はい、靴も持ってね。来客があるのよ。いいわね」

亨   「は、はい」



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須藤 「いらっしゃい。安藤さん」

美奈 「お邪魔します、須藤先生」

須藤 「急に家に来るなんて、何の用だったかしら」

美奈 「せんせー、亨知らない?」

須藤 「神崎君? 知らないわよ? 昨日学校で会ったんじゃないの?」

美奈 「朝から電話掛けてるのに繋がらないのよね
    せんせー、なんか亨に興味ありそうだから、知ってるんじゃないかって思って」

須藤 「知らないわね、でもそれだけでわざわざウチにきたの?」

美奈 「あ、それは違うんだ」

須藤 「じゃあ、授業で判らない所でもあった?」

美奈 「そんなのは自分で調べるからいいの
    せんせーはね、ちょっと目障りだからいなくなって貰おうと思って」

須藤 「・・・っ、随分、物騒な事をサラッというのね」

美奈 「そうかな、判りやすいでしょ?」

須藤 「一つ、聞いてもいい?」

美奈 「なに?」

須藤 「この、スマホストラップ。あなたのかしら」

美奈 「やだ、失くしたと思ってたのにあった。
    良かった、亨とペアの奴だったから失くしてショックだったんだよね」

須藤 「どこで、見付けたか聞かないのね」

美奈 「見つかればそれでいいよ。良かった」

須藤 「それは神崎君が5階から落ちた稲垣君が握っていたモノを
    あなたのだと知って隠し持っていたモノよ!」

美奈 「え」

須藤 「神崎君は稲垣君の死も樋口君の死も不自然だという事に気付いているわ!」

美奈 「やだ、嘘。嬉しい・・・」

須藤 「安藤、さん?」

美奈 「だって、それはあたしが稲垣君を殺した証拠を隠蔽してくれてるって事でしょ?
    亨、あたしの事考えてくれてるんだ。嬉しい」

須藤 「判っていないのね、それを私に話したって事は」

美奈 「うふふふふ、あーっはっはっはっは!」

須藤 「安藤さん?」

美奈 「知っているのは先生だけだから、先生が死んでしまえばこの事件は迷宮入りって事だよね!
    ねっ、ねぇ。言わないよね、先生。言えないもんね今から先生死ぬんだもんね、ね?」

須藤 「どうして・・・、稲垣君を、殺したの?」

美奈 「だって、稲垣君が居なくなれば亨の学費が全額免除になるじゃない
    バイトで忙しいって時間をあたしと会う時間にして欲しかったんだもん」

須藤 「・・・、それ、だけ?」

美奈 「やだ、他に何の理由があるっていうの?
    消そうかなって思ってた時にたまたま樋口君がマンションから出て来るの見掛けて
    樋口君も色々抱えてるみたいだったし、殺してくれてたらいいなと思ったのにさ
    部屋の様子を見に行ったら、稲垣君が頭から血を流しながら起き上がってる所でね
    ふらついてたから、足元掬い上げたら結構あっさり落っこちちゃった」

須藤 「樋口君も・・・、あなたが」

美奈 「そうだよ。でも樋口君はちょっと苦労したかな」

須藤 「それは、そうよね。首吊り自殺に見せ掛けるなんて、どうやって」

美奈 「樋口君の部屋1階だったから軒下に悪夢を払うお守り吊るしてあげるっていって
    梯子を持って来てもらったの。樋口君自身にね
    で、軒下の梁の所にロープを二重に掛けておいたの」

須藤 「あなた、最初から稲垣君も樋口君も殺す積もりで」

美奈 「ねぇ、せんせ。健全な男の子が勉強づくめって精神衛生上良くないよね、ふふっ
    ミニスカートで梯子の上に乗ってたら何となく下から覗きこんでるのよ。ホント男ってバカ
    だから『梯子が揺れて怖いから支えてて貰える?』って言って
    樋口君が出て来た所を首にロープ引っ掛けて梯子から飛び降りたんだよ
    滑車の原理を使えばそんなに力いらないからそこは楽でしたー」

須藤 「そんな事を聞いているんじゃないでしょう?!」

美奈 「まぁ、その前に気のある素振りをしたから覗き込んで当然よね、あはは」

須藤 「二人も人を殺すなんてあなたに良心はないの?!」

美奈 「先生、あんまり面倒臭い事聞かないでよ、て言うかもう死んで?」

須藤 「な」

美奈 「安心して? ちゃんと先生も自殺に見せ掛けてあげるから」

亨  「もうやめろ! 美奈!」

美奈 「・・・、亨?」

須藤 「神崎君」

美奈 「ちょっとぉ・・・、先生の嘘つき、知らないって言ったよねー」

亨   「美奈。もう警察を呼んだ
    今美奈が喋ってた事も全部スマホに録音してある!」

美奈 「録音? 警察って? 亨? 意味わかんない。なんで?」

亨   「お前、二人も人殺して意味判らないとか、何言ってんの?」

美奈 「亨との時間作る為だもん仕方ないじゃん」

亨   「仕方ない、だって?」

美奈 「先生だって亨との時間奪うから嫌いだよ
    でも亨は判らないんだね」

亨   「そんなモノ、判りたくない。警察が来た、美奈。お迎えだ」

美奈 「不思議だね、亨が判らず屋だって知ったら、急に冷めちゃった。バイバイ」



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亨   「美奈の意見に同意する訳じゃないけど、先生は随分と俺に肩入れしてるように見えます」

須藤 「そう?」

亨   「いや、これ以上変な期待はしないんですけど」

須藤 「変な期待ね。全く噂って言う物程、無責任で不条理で理不尽な物はないわね
    ちょっと人より美人でスタイル良くてコケティッシュなだけでビッチ扱い」

亨   「あ、そこは否定しないんですね」

須藤 「当然でしょう? 自分の価値くらい自分で決めるわ
    あ、そこのライター取って火を点けて頂戴」

亨   「タバコ吸うんですね。知りませんでした」

須藤 「・・・・、ふーーーーー。学校じゃ吸わないもの」

亨   「生徒の手前ですか」

須藤 「そ。神崎君こそ、ライター逆手に持って手を添えて火を点ける」

亨   「え」

須藤 「やっぱり東町でスーツ姿の神崎君を見たのは間違いじゃなかったようね」

亨   「・・・っ、あ」

須藤 「そんな火の点け方するのは水商売の奴以外にいないのよ
    年齢偽ってどこのホストクラブで働いてるの」

亨   「いや、あの、その」

須藤 「いいわ、どこでも。今日限りで辞めなさい」

亨   「いや、その俺も生活掛かってるんで」

須藤 「あんたはここで暮らしなさい。亨」

亨   「・・・、は?」

須藤 「あたしの旧姓は森谷って言うのよ」

亨   「ん? 母さんの旧姓と同じ?」

須藤 「姉さんの息子がホストクラブでバイトなんて許すと思うの?
    あ、あたしの事は叔母さんじゃなくて涼子さんと呼びなさいね」

亨   「母さんの妹、って事は、叔母さん?」

須藤 「あぁん?」

亨   「すみません。涼子さん」

須藤 「安藤さんの事は気の毒だけど忘れなさい」

亨   「いえ、俺は自分でも驚くくらい冷静なんで大丈夫」

須藤 「安藤美奈は私達では判らないわ、理解のできない人種
    彼女の様な人間を生物学的精神医学の分野ではサイコパス、と呼ぶわ」

亨   「そうですか?」

須藤 「なによ、亨には判るって言うの?」

亨   「判るって言うか・・・、くふふふっ、ふはははは」

須藤 「・・・っ?! 亨?」

亨   「あははははは、全く美奈には感謝すらしているよ、あんなに計算通りに動いてくれるなんて思わなかった」

須藤 「計算通りって何を言っているの?!」

亨   「俺は美奈が善悪の区別がつかない人間だとは最初から知っていた」

須藤 「知っていたって、じゃあ」

亨   「惚れこませれば俺の為に人を殺す事だって躊躇わない事くらい判ってたよ
    だから、美奈が動きやすい様にしてやったんだ
    滑車の原理を教えたのだって、稲垣の殺人現場にいたのだって偶然じゃない」

須藤 「・・・、あ・・・」

亨   「怖がらないでよ、涼子さんは殺さない。俺の生活を支えてくれるんだもんね」

須藤 「亨・・・」

亨   「先生、稲垣の救助措置を取らなかった俺を責める?」