原典の勇者 -始まりの町- /♂×3 ♀×3 /嵩音ルイ



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所要時間:60分程度
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●登場人物●

オティス 23歳 ♀ 

    どこからか来た旅人。
    飄々としており温厚だが、勇者を嫌っている。よくみると全身古傷だらけである。
    剣と財布と旅道具一式のみで一人旅をしており、素性は定かでない。
    なにやら秘密を持っているようだが…?


ハント 39歳 ♂

    ふとオティスが立ち寄ったカフェの店主。
    プリメロの町長を担っており、普段はカフェで気ままにコーヒーを淹れる毎日を過ごしている。
    娘のアニを溺愛しすぎるあまり、母親の死をごまかしたままであることに踏ん切りがついていない。


アニ 12歳 ♀

    ハントの娘。
    好奇心旺盛で、疑問に思ったことはすぐ知りたがるタイプ。最近父からコーヒーとサンドイッチの極意を教わった。
    旅に出た(と父が嘘をついた)母を探すため、いつか旅に出るためにひっそり貯金している。


ケルディ 25歳 ♂

    勇者特権を有する剣士。手の甲に王より賜った勇者の刻印がある
    冷静沈着なナチュラルボーンで、人当たりもよい。
    が、その実裏の顔は黒く、目的のためなら手段を問わない。
    若いころから剣術と魔法の才能を開花させ、三年前に勇者の印である祝福の紋章を王より携わった。


リオス 21歳 ♀

    ケルディに付き従う魔法使い。
    貧しい家の生まれであり、炎系と一部の回復の魔法しか使えず落ちぶれていたところをケルディに拾われる。
    ケルディと関係を持っており、二人きりだと物腰が柔らかくなる。
    少しでも彼を馬鹿にする声が聞こえるだけで感情的になる。


ラーファ 25歳 ♂

    ケルディに付き従う戦士。
    すこし頭が固いが、思いやりもある熱血漢。うるさい。
    兵士時代からケルディの良き友人であり、彼が旅に出ると決めた時は真っ先に同行を決めた。



●役表●



オティス  (♀)・・・
ハント   (♂)・・・
アニ    (♀)・・・
ケルディ (♂)・・・
リオス   (♀)・・・
ラーファ  (♂)・・・


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○第一話 『始まりの町-プリメロ』


アニ   「おはようお父さん・・・ふわあぁ(欠伸)」

ハント  「おはようアニ。今日もよく寝てたな。」

アニ   「うーん、朝は眠たいよ。最近寒くなってきたし」

ハント  「たしかにもうじき冬だ。ここいらは冷え込むからな。」

アニ   「このプリメロ付近も、雪降るんだよね?」

ハント  「去年は降らなかったが、今年は降るかもしれん」

アニ   「降るの!?積もるかな?雪だるま作って遊ぶんだ!」

ハント  「お、いいな。なら、店の周りの雪かきもやってくれるんだな?」

アニ   「雪さん!やっぱ降ってこなくていいよ!」

ハント  「まあ、なんだ。積もってくれるのはありがたい。冷え込めば魔物の活動は消極的になる」

アニ   「へー、そうなんだ」

ハント  「この間教えたところだろう?」

アニ   「えへへ、ごめんなさい」

ハント  「魔物から身を守るために、出来ることはやっといた方がいい」

アニ   「だから、町の周りにおっきな柵立ててるの?」

ハント  「プリメロの周りにも魔物が増えてきた。自分たちの町は自分たちで守らにゃならん」

アニ   「町長さんってお仕事、大変なんだね」

ハント  「大変だが、やるべきことはやらなきゃな。お前だけじゃない、皆を守りたいから」

アニ   「お父さん、あんまり無理しないで?お父さんもいなくなっちゃったらやだよ」

ハント  「・・・そんな顔するな。父さんはいなくなったりしない」

アニ   「うん。あ、そろそろお店明ける時間かな?」

ハント  「もうそんな時間か。看板裏返してきてくれ」

アニ   「はあい!今日はどんな人が来るかなあ、っと」

ハント  「いつもみたいにお得意さんしか来ないだろう」

アニ   「大工のおじさんとか、花屋のお姉さんとか?」

ハント  「そうそう、いつもサンドイッチ頼んでくれるおじさん。
      アニがつくったサンドイッチ、美味いって褒めてくれてるぞ」

アニ   「おお!そうなんだ!よーし、なら頑張ってご飯作るぞ!」

ハント  「ん、だれか来たみたいだ。アニ、挨拶しっかりな」

アニ   「いらっしゃいませー!」

ハント  「いらっしゃーい、おや?珍しいね、旅の人か」

オティス 「こんにちは。いい店ですね」

ハント  「はは、むず痒いね。あまりいいもの揃えてないから雰囲気で誤魔化してるだけだよ」

オティス 「そうですか?カフェは雰囲気あってこそでしょう」

アニ   「はい!メニューどうぞ!」

オティス 「うん、ありがとう」

ハント  「一応うちはカフェだから、そこに載ってる軽食くらいしかないけどそれでもいいかな?」

オティス 「もちろん。そうですね、一番いいのを頼みます」

ハント  「そりゃ腕がなるね。アニ、いつものサンドイッチ」

アニ   「はーい!いつものね!」

オティス 「娘さんですか?いいですね、私は兄弟も姉妹もいないもので」

ハント  「そうだろそうだろ、自分の子供ってのは格別に可愛いもんだ」

オティス 「いいですね、家族って。暖かくて、優しくて」

ハント  「勿論。けど両親子供みんな生きてて幸せって家族も珍しくなった。悲しいことこの上ない」

オティス 「魔物が蔓延るこのご時世ですからね、地図から消える町もあるくらいです。」

ハント  「やな世の中だ・・・はいコーヒーお待ち。サンドイッチはもうちょっと待ってくれ」

オティス 「いい豆の香りですね。コーヒーはやはりこうでなくては」

ハント  「最近はコーヒー豆も希少になってきたから、間に合わせ品ばかりだからね。
      あ、うちのはちゃんと天然モノだよ」

オティス 「やっぱり、あちこちで魔物の被害が出てるんですね」

ハント  「ああ。うちの町の畑も荒らされるようになった。酷い有様だよ」

オティス 「たしかに、ゴブリンだのスケルトンだのが通り道にいたな。以前の町よりも多いような」

ハント  「ん?街道周りは整備されてて魔物は寄り付かないはずだけど・・・もしや、街道通らずに来たのか?」

オティス 「途中までは。人が多くて煩わしかったんで逸れました」

ハント  「自殺志願者かよ、とんでもないな」

オティス 「慣れるとそっちの方が楽なんですよ、馬も飛ばせますしね。
      ところで、安く泊まれる宿屋って知ってますか?」

ハント  「この町の?宿屋はあるが、ちと高いんだよ。
      正直飯もあんまり美味しくないし・・・なんなら、ウチに泊まっていくかい?ベッドなら一つ空いてる」

オティス 「えっ本当ですか?あの、今財布が厳しいんですけど幾らくらいで・・・」

ハント  「宿泊代なんか取らないよ。ここで食事してくれるだけでいい。
      その代わりと言っちゃなんだけど、酒のツマミに旅の話でもしてくれ」

オティス 「はい。構いませんよ、いくらでも話します」

アニ   「はいはーい!サンドイッチだよ!」

ハント  「お?いつもより上手いな。やるじゃねえか」

アニ   「へへん!お姉ちゃん、食べさせてあげようか?あたしの自信作!」

オティス 「えっ?いや嬉しいけど私が独占しちゃったら他の人たちに手が回らないんじゃ」

ハント  「嫌味かな?」

アニ   「今は誰もいないから平気だよ!」

オティス 「あえー、じ、じゃあお願いしようかな?」

アニ   「いいよ!あーんして!」

オティス 「あ、あーん・・・ん、美味しい!サンドイッチつくるの上手いねえアニちゃん!」

ハント  「よしうちの娘のあーん代も料金に足しとくか。100メナね」

オティス 「うっそでしょ!?コーヒーと同額!?」

ハント  「はは、冗談だよ。しかし旅人さんはなんだってこっちの方に?観光名所があるわけでもないだろう」

オティス 「ここいらの地方は比較的平和と聞いたからです。勇者特権を持つ者も居そうになかったので」






ラーファ 「おーいケルディ、向こうの方に町が見えたぞ!」

リオス  「プリメロですか、意外と近くにありましたわね。」

ラーファ 「ここなら物資も手に入るんじゃねーの?」

ケルディ 「そうだな、だがたむろしているゴブリンを排除してからだ。町に入るのはその後だよ」

ラーファ 「おう!かかってこいやゴブリンども!」

リオス  「やだ、はしたないですわよラーファ。炎が撃てませんわ」

ケルディ 「このケルディの通った道に邪な魔物どもは必要ない。消えてもらうぞ」

ラーファ 「町についたらまずは飯だ!」

リオス  「そろそろ回復薬も切れそうですわ、補充しないといけませんね」

ケルディ 「なんとでもなるさ。なぜなら私は、勇者特権を有している勇者だからな。」






ハント  「勇者特権?なんだいそりゃ」

オティス 「見たことないですか?いるんですよ、そういう特権を持つ者がね。」

ハント  「そんなのがあるのか。知らなかった」

アニ   「勇者って、悪い魔物を倒すすっごい強い人でしょ!あたし本で読んだことある!」

ハント  「世界を滅ぼそうとした魔龍を封印した英雄か。300年くらい前の話だったっけ?」

オティス 「はい。魔龍を討つべく旅に出て、不可能と思われた封印にまで追い込んだ剣士を称える称号ですね」

アニ   「すごいよね!あたし一回会ってみたい!あ、けど昔の人か!だめだ!」

ハント  「で、その勇者特権っていうのは?」

オティス 「悠久の時を経て復活した魔龍を討ち果たすべく、決起した者に王が与えた特権のことです」

ハント  「そんなもんがあるのか。魔龍に挑もうなんて、すごい奴なんだな」

オティス 「まぁ引っくるめていえば食事とか道具とか宿とか、大抵のものが安く使える」

ハント  「割引券みたいだな」

オティス 「けど他にも、厄介なものも特権としてありましてね」

ハント  「厄介なもの、というと?」

オティス 「国民の勇者への積極的協力。勇者特権を持つ者に対して国民は協力すべし」

アニ   「つまり、勇者さんを手伝え、ってこと?」

オティス 「旅の手助けが目的だったんですが、悪用されがちなんですコレ」

ハント  「悪用ってどういうことだ」

オティス 「それともう一つ厄介な特権がありまして」

ハント  「悪用の説明は?」

オティス 「不穏分子の排除許可。これがかなり厄介なんです」

ハント  「うちは田舎だからそういう話全然聞かなくてね。不穏分子のなんとかってのは、どういう権利なんだ?」

オティス 「国や町、人民に仇なす組織や個人が町に潜んでいた場合、問答無用で鎮圧していい権利です。」

ハント  「魔物退治だけじゃなく、国の敵も倒す仕事ってことか。それがなんで厄介なんだ?」

オティス 「考えてみてくださいよ、国民は勇者に協力しなきゃいけない。
      そして不穏分子がいた場合は排除してもいいんです」

ハント  「まあそういうことだよな。つまり?」

オティス 「不穏分子であるかどうかを決めるのは勇者です。要するに・・・」

アニ   「お父さん、なんだか外が騒がしいよ」

ハント  「そういえばさっきからなんか聞こえるな。なんだなんだ」

ラーファ 「おらおら、町の者ども!勇者ケルディが来たぞ!」

リオス  「炎の勇者、ケルディ様ですわよ!頭が高いのではなくて?」

ケルディ 「毎度思うんだが、その持ち上げ方おかしいんじゃないか?小恥ずかしい」

リオス  「偉大なる勇者の来訪ですわよ?それくらいでなくては。」

ハント  「勇者が来た?」

オティス 「げっ、わざわざ来なさそうな町選んだってのに。なんて間の悪さだ」

ハント  「噂の勇者か、気になるな」

アニ   「勇者さま!あたし会ってみたい!行こうよお父さん!」

オティス 「あーと、私はここに居てもいいですか?」

ハント  「そうか、なら店番でもしておいてくれ。ほらアニ行くぞ」

アニ   「わーい!勇者さまが来たー!」

オティス 「みんなミーハーだな・・・あ、コーヒー飲み切っちゃった。」



ハント  「あれが勇者か。確かにこう、貫禄があるな」

アニ   「勇者さま!本物だ!」

ケルディ 「プリメロとか言ったか、ここもいい町だな。人の活気が溢れている」

ラーファ 「そうか?田舎くせえし貧弱じゃね?」

リオス  「たしかに、ぱっとしませんわね」

ケルディ 「それ故だ。人のつながりが強いのだろうね」

リオス  「そんなことよりケルディ様。私、新しい魔法道具が欲しいですわ」

ラーファ 「御託はいい、俺は腹が減った!」

ケルディ 「なら一度食事にしよう。そうだな、どこかにそういう趣の店はないものか」

リオス  「あれなんかどうですか?木造でオシャレですわよ」

ラーファ 「おお、森の精霊の家みてえ!かっけぇ!」

リオス  「温かみを感じますわね」

ケルディ 「よし、ならばここにしよう。ここの店の者は?」

アニ   「あたし!あたしのおみせー!」

ハント  「こ、こらこら騒ぐなアニ。これはどうも」

ケルディ 「はは。ここで少し空腹を紛らわせたいのだが、よろしいかな?」

ハント  「は、はい。こじんまりしたカフェですがそれでも良ければ」

アニ   「いらっしゃーい!」

ハント  「あ、ちょっと待てよ?中にはまだあの旅人さんが」

ラーファ 「邪魔するぜえ!」

リオス  「扉を蹴らないでくださいまし」

ケルディ 「ふむ、内装もこだわっていていい雰囲気だ。灯りもおしゃれで、それに」

オティス 「あー・・・まあ、手ごろな食事処って言ったらここになるよね」

ケルディ 「おやっ?」

オティス 「そんな気はしてたよ、うん。」

ケルディ 「先客がいたのか、すまないね。お邪魔させてもらうよ」

アニ   「勇者さまようこそ!」

ケルディ 「元気なお嬢さんだね」

ラーファ 「飯だ飯だ!おっさんなんか食えるもんねぇか?なんでも食うぞ俺は!」

ハント  「メニューはこちらです。何か希望があれば作りますが」

ラーファ 「これでいい!肉挟んでくれ!なんかケモノのうまい肉!」

リオス  「私はコーヒーが飲みたいですわ。あ、ミルクと砂糖を入れておいてくださいな」

ケルディ 「ところでマスター。ここの町は魔物の襲撃を受けたことはあるのかな?」

ハント  「直接はないけど・・・畑を荒らされてる。この間は家畜を全て盗まれたやつもいました」

ケルディ 「なるほど。情報提供、感謝します。」

オティス 「すみませーんコーヒーお代わりもらってもいいですか?」

ケルディ 「そこの旅人。君は何という名かな?」

オティス 「オティスです。勇者ケルディ、お会いできて何より。」

ケルディ 「こちらこそ。もしや君も勇者の祝福を受けた身かな?」

リオス  「違うと思いますわケルディ様。手の甲に祝福の紋章がありませんもの。」

オティス 「祝福の紋章?ああ、勇者認定を受ける時に王から授かるっていうあの?」

ケルディ 「たしかに無いな。けど一般人ではないのだろう?」

オティス 「どうしてそう思うんです?私はただの旅人です」

ケルディ 「ただの旅人が、私に対してこうも刺々しい殺気を飛ばしてくるとは思えないのでね」

オティス 「これは失敬。気付かれるほどの才覚がおありとは。」

リオス  「なっ!失礼ですわよそこの女!このお方は王より祝福を賜りし、魔龍を討ち果たすべく選ばれた勇者の・・・」

ケルディ 「そう興奮しないでくれリオス」

リオス  「しかし!ケルディ様が侮蔑されたとあれば!」

ケルディ 「むしろ謝るのは私の方だ。彼女を見誤っていた」

リオス  「見誤っていた、ですって?」

ケルディ 「オティス、君は私と同じ部類の人間だろう?」

オティス 「いえいえ、今を生きる勇者と私が同じ部類だなんて」

リオス  「そうですわ!
      あなたのようなただの放浪者と、世界を守るべく日夜魔物と戦うケルディ様が同じ部類などありえませんわ!」

オティス 「えっと、そこの魔法使いっぽいお嬢さん。何か勘違いしてない?」

リオス  「勘違い?何のことですの?」

ラーファ 「おいこのガキ!何しやがる!」

アニ   「ひゃっ!ごめんなさい!ごめんなさい!」

ケルディ 「ラーファ、どうしたんだ。いきなりそんな大声をあげて」

ラーファ 「どうもこうもねぇ!このガキが俺の服にトマトソースこぼしやがった!」

ハント  「娘が申し訳ありません!直ぐに拭くものを・・・」

ラーファ 「勇者の一行に粗相を働いておいて、何だその態度は!」

アニ   「きゃっ!・・・あれ?」

ケルディ 「ラーファ、なにも殴りつけることはないだろう」

ラーファ 「うるせえ、離せよケルディ」

リオス  「大の男がそんなに喚いて、みっともないですわよ」

ラーファ 「・・・ったく、とっとと拭くもの持ってこい!」

ハント  「はい!今すぐ!アニ、下がってなさい」

アニ   「わ、わかった・・・勇者さま、ごめんなさい」

ラーファ 「気ぃつけろ」

ケルディ 「勇者は私だ。すまないねオティス、仲間が煩かったろう」

オティス 「別に、気に留めてません。ところで勇者さん、これからどうされる予定で?」

ケルディ 「ここからそう遠くないところに、魔物が拠点をつくっていると情報を聞いた。」

リオス  「そのために、このプリメロまで来たんですわよ」

ケルディ 「ひとまず休憩してから装備を整え、一息に殲滅する」

オティス 「山の中腹に出来たやつかな。向かうなら東から迂回したほうがいい」

ケルディ 「何故かな?」

オティス 「今の季節、ここらの地域の風は西から東に吹く」

ケルディ 「なるほど、匂いで気付かれないようにか。アドバイス、感謝する。」

ハント  「どうぞ、これで拭いてください」

ラーファ 「ったく、シミになっちまうじゃねぇか」

ケルディ 「マスター、私もサンドイッチを頂いてもよろしいか?」

ハント  「はい!かしこまりました」

ラーファ 「店主のおっさん、パスタとかねぇの」






オティス 「さーて、少し休憩させてもらおうかな・・・アニちゃん、こっちにいたの」

アニ   「ベッドのお掃除してたんだよ!勇者さんたちは?」

オティス 「町の中心の宿屋に行ったよ。少しでもいいところで休みたいから、ってさ」

アニ   「お姉ちゃんも、そっち行くの?」

オティス 「あんまりお金持ってなくてね。お父さんの好意でここに泊まらせてもらうことになったよ」

アニ   「本当?やったー!」

オティス 「勇者じゃなくて悪いね。けどいろんなお話ししてあげるね」

アニ   「う、ううん。勇者さまよりも、お姉ちゃんがいてくれるほうがいいな。」

オティス 「そうなの?もしかして、戦士の人が怖かった?」

アニ   「うん。ソースこぼしちゃったのは悪いってわかってるよ。
      けど、あんなに怒られると思わなかった」

オティス 「よしよし、怖かったね」

アニ   「ふへへ(照れ笑い)。お母さんもね、いつもこうやって頭撫でてくれたんだよ」

オティス 「お母さんは、今どこにいるの?」

アニ   「お母さんはね、旅に出たんだって!
      町を出ちゃったらしいんだけど、どこにいるのかわかんないの!」

オティス 「そっ・・・か。お母さんも私と同じ旅人なんだね」

アニ   「だからね、私もいつか旅に出て、お母さんに逢いに行くんだ!」

オティス 「いいね、応援するよ」

アニ   「うん!えっと、あのねあのね。一つだけワガママ言ってもいいかな」

オティス 「どうしたの?」

アニ   「今日の夜ね、一緒のベッドで寝てもいいかな?」

オティス 「同じベッドで・・・私と一緒でいいの?」

アニ   「うん!ちょっとね、お母さんみたいに優しくて、思い出しちゃったの」

オティス 「そっか。辛かったね」

アニ   「勇者さま、ちょっと怖かったの。本で読んだ勇者さまは、もっと優しかったけどなぁ」

オティス 「人間なんてそんなもんだよ。権利を手にしちゃうと尚更、変わっちゃうさ。
      それが付き人風情であろうとね」

アニ   「難しくてわかんない」

オティス 「いずれわかる日がくると思うよ。それが連中の厄介さなんだから」

アニ   「わかんないってば!」



◆◆◆


ケルディ 「さて、我々はこれから町の近くに巣をつくった魔物の退治に向かいます、が」

ラーファ 「なあお前ら、この御方は誰だ?さっきちゃんと聞いてたよな?」

ケルディ 「そう、俺は王より認められ、祝福を授かった勇者です」

リオス  「民を、町を、国を、世界を救うのが私たちの役目ですわ。けれど」

ラーファ 「そのためには、てめえらにも協力してもらわねえと困るんだよ」

リオス  「山に出来ている拠点を叩くということは、つまりあなたたちを守るという仕事」

ケルディ 「勇者と言えど、慈善事業ではやっていけません。
      ですから魔物討伐に成功した暁には、報酬として1000万メナほど用意していただきたい」

リオス  「まあ、なんてこと。不満そうね」

ラーファ 「高すぎる、だとよ」

リオス  「むしろ負けてる方よ。命を救うというのに高いだなんて、随分と傲慢ですわね」

ケルディ 「俺たちはかならず、この町に向けられている脅威を取り除いてみせます」

リオス  「力なきものが力あるものに守ってもらえるのは必然ではなくてよ?」

ラーファ 「はは、生きたけりゃ俺たちから命を買うしかねえんだ!1000万メナ、ちゃんと用意しとけよ?」

ケルディ 「さあ、リオス、ラーファ。役目を果たしに行こうか」



ハント  「くそっ!何が勇者だ、足元を見やがって!」

オティス 「やっぱりそう来たか・・・どいつもこいつも似たようなやり口だ」

ハント  「なぁ旅人さん。勇者って、どいつもこいつもそうなのか?」

オティス 「オティスと呼んでくれていいですよ
      ・・・勇者の権利を盾にして金銭を強請るのはよくある話です」

ハント  「1000万なんて法外にも程がある、コーヒー豆が何キロ買えると思ってるんだ
      ・・・そりゃ、魔物から守ってくれるのはありがたいんだけどさ」

オティス 「勇者は慈善事業じゃない、ってのは正論だし、国民には勇者に協力する必要があると王は言ってます」

ハント  「わかってる、けどそれとこれとは別だろう?」

オティス 「無論です。どうしたものかな。準備もしてないし、今は備えがないよな」

ハント  「皆でかき集めりゃあるだろうけど、うちは小さな町なんだ。
      そんな金額持っていかれたらやっていけない」

オティス 「これが勇者特権の恐ろしいところなんですよ。
      明確な報酬の上限が設定さされておらず、協力すべしとしか明記されてないですから」

ハント  「その結果青天井ってことか。くそ、良い人かと思ったがクソ野郎じゃないかあの勇者」

オティス 「腕は本物な分尚更タチが悪いですね。それに・・・」

アニ   「お姉ちゃん!お父さん!勇者さまが帰ってきた!」

ハント  「もう!?早すぎだろ!」

オティス 「町を発ってから二時間・・・まああのパーティならそれくらいか」



ラーファ 「ちゃーんと巣は潰してきたぜ。ほら、証拠として頭目の首持ってきたぞ」

ケルディ 「では約束通り、1000万メナを支払っていただきたい」

ハント  「だから、ウチの町にそんな大金はないんだ。何か別の形で勘弁してもらえないだろうか」

ケルディ 「そうか。減額しても構わないが、それでも出せるお金はない、というのだな。」

ハント  「ああ。だから・・・」

ケルディ 「では仕方あるまい。勇者特権に基づき、報酬はこちらで回収させて頂こう」

ハント  「回収?おい、どういうことだ」

ケルディ 「あなたたち一般市民には勇者への協力が規定されています。」

ハント  「そりゃ何度も聞いたよ、どういうことかって聞いている」

リオス  「あらあら、お金もない上に話を理解する知能もないのかしら?」

ラーファ 「つまり、勇者の活動の支援をしろってことだ」

ケルディ 「妨げることは許されません。この決まりを決めたのは王です」

リオス  「ゴブリン討伐の報酬は、私たちがあなたたちの家から自主的に回収するということよ。
      文句は聞かないし、聞けないわ」

ハント  「なっ!?そんな無茶苦茶が通じると思ってるのか!」

ケルディ 「通じますとも。なぜなら私たちは、勇者一行なのです」



ラーファ 「おお!リオスどうだこれ!こういうの好きなんじゃね?」

リオス  「宝石であればいいってわけじゃないけど・・・ま、悪くないわ」

ラーファ 「こういう金ピかのやつはだめか?」

リオス  「ブレスレットかしら。良いものだけど、付けようとは思わないわね」

ラーファ 「金にはなるよな?」

リオス  「むしろ、換金所に持っていけばいい金になるわ」

ラーファ 「そっか!お前が欲しいんは魔道具だっけ?そういうんだよな?」

リオス  「そうですわ、って!またそうやって箱を壊す!装飾に凝った小物入れは貴重なのですわよ!?」

ラーファ 「おいリオス!このネックレスなんかお前好みじゃねぇの?」

リオス  「あら、綺麗なサファイアですわね。これは良い魔道具に出来そうね」

ラーファ 「こっちの棚には3万メナ入ってるな」

リオス  「この家はこんなものかしら。壺の中には何もなかったわ。次よ、次。」

ケルディ 「二人とも、収穫はどうだ?」

リオス  「いまいち。ほとんどの家を回ったけど、所詮田舎にある小さな町だもの。500万にすら達するか怪しいわよ。」

ラーファ 「1000万も支出できねぇ町じゃダメだろ」

ケルディ 「ふむ、なるほどね。とりあえずもう一晩休んでから、何も無ければ明日の朝に発とう。」

ラーファ 「おっしゃわかった!メシ美味そうな店探してくるか!腹ごしらえだ!」

リオス  「そんなこと大声で、恥ずかしくないのかしら」

ケルディ 「リオス、宿屋に戻ったらこれをどこかに置いておいてくれ。そうだな、あの喫茶あたりが適当かな」

リオス  「これって?…いつもの、かしら?」

ケルディ 「目標額には足りないのだろう?嫌なら断ってくれてもいい」

リオス  「そう。わかりましたわ。」

ケルディ 「頼んだよ。む、リオス、そこにも落ちてる」

リオス  「本当。このネックレスもいいわね。貰っておきましょう」



ケルディ 「この建物は・・・バーか。こういう店もあるのだな。」

ラーファ 「おーら、逃げてんじゃねえよ!暴れんな、っと!」

ケルディ 「酒の品ぞろえは悪くない・・・ん、奥が知った声で騒がしいな」

ラーファ 「ここはそういう店じゃない、だあ?こんなドレス着せといてそりゃねえだろ」

ケルディ 「おや、もう楽しんでいたのか。気が早いな」

ラーファ 「おうケルディか!さびれた町だがいい女は多いぜ、悪くねえ。」

ケルディ 「殺すなよ、私たちは盗賊じゃないんだ」

ラーファ 「ははは!わかってらあ!それに殺したって楽しくないだろう。」

ケルディ 「以前の町でのことはもう忘れたか…どうしたのかなお嬢さん。何か言いたそうだね」

ラーファ 「お前も混ざるか?好みの子もいんじゃねえの」

ケルディ 「なら、私たちのために奉仕してくれたまえ。この町を救ってくれた英雄に、何かしたいことはないか?ん?」

ラーファ 「おいおい、泣かせるなんてかわいそうじゃねえの」

ケルディ 「まあ、たまにはいいだろう。寄り道も悪くない・・・こちらが空いているだろう、少し楽しませてくれ」

ラーファ 「おおら、ちゃんということ聞けよ!」

ケルディ 「だから、お前は短絡的すぎだ」



リオス  「失礼しますわ」

ハント  「・・・どうも」

リオス  「少し態度が悪いのではなくて?」

ハント  「い・・・いらっしゃいませ。なにか入用ですか」

リオス  「特に大きな用ではないですわ。ところで、あの旅人は?」

ハント  「あの人なら席を外している。何かあったんでしょうか?」

リオス  「いいえ、大した用では。」

ケルディ 「やあリオス、首尾はどうだい」

リオス  「上々ですわ」

ラーファ 「うあ-なんか喉乾いたな。おっさん飲み物」

ハント  「すぐにお持ちします。」

ラーファ 「で、なんかいいもんあったか?」

リオス  「お金になるものは多いですが、魔道具はありませんわね。希少なものですから、仕方ありませんが」

ラーファ 「そうか!俺が立ち寄った店の酒もよかったぞ。店員もよかったがな!」

リオス  「店員・・・あなた、さてはまた手を出したんですの?」

ラーファ 「美人でスタイルもよかったからな。やあ、我慢できんかった」

リオス  「そういうお店に行けば良いんでなくて?」

ラーファ 「わかってねえな、初心なのがいいんだよ」

リオス  「まったく。私、あなたのその悪癖ばかりは認めたくありませんわ。ねえケルディ様」

ラーファ 「ケルディも一緒になって楽しんでたぞ」

リオス  「なんですって?」

ケルディ 「すまないねリオス、此度ばかりはラーファを責められない」

リオス  「ケ、ケルディ様!私というものがありながら!」

ケルディ 「聞いてくれ、私とて誰でもいいわけじゃない」

リオス  「町娘に手を出しておいて、説得力がありませんわ!」

ケルディ 「今回でよくわかったよ。やはり、私には君しかありえない」

リオス  「ケルディ様っ!これからも私はあなたのためにこの魔法を振るいますわ!」

ラーファ 「ちょろいなお前」

リオス  「私はあなたとは違うのですよ!ケルディ様が落ちこぼれの私を見出してくれなかったら、今頃どうなっていたか・・・」

ラーファ 「俺とケルディは腐れ縁だしな。お前が勇者になった翌日には仲間だったしよ」

ケルディ 「パーティを組んでもう1年か。まるで昨日のことのようだ」

ハント  「はい、コーヒーをお淹れしました」

ケルディ 「どうも。さて、これからどうしたものか・・・ああ、すっかり忘れていた」

リオス  「コーヒー三杯分の値段、300メナは足りない報酬の分に充てますわね」

ラーファ 「これ飲んだら、この店からもあれこれ貰っていくからな」



オティス 「ずいぶんとまた、派手に荒らしていきましたね」

アニ   「あ、お姉ちゃんお帰りなさい!今片づけしてるんだよ!」

ハント  「金庫はやられてる・・・隠してた予備金庫は無事だったからまだいいか」

アニ   「わわ、コーヒーセットは全部無事だよ!豆も!」

ハント  「残りは明日の朝にしよう。今日はもう遅いから寝なさいアニ」

アニ   「うん、わかった」

オティス 「なら明日お手伝いしますよ」

アニ   「あっ!お気に入りのテディベアがない!」

ハント  「すまない。だがあまり無理しないでほしい」

アニ   「あれ・・・貯金箱もない」

オティス 「私でも、できる範囲で。」

アニ   「あの人、お話で呼んだ勇者さまとは、ぜんぜん違うんだね。」

ハント  「人の家から金目のもの勝手に持っていくなんて強盗と変わらないぞ」

オティス 「そんな所業も、勇者への国民の協力と解釈されますからね。今のところ摘発された例はありません」

ハント  「つくづく無茶苦茶だな・・・なんだってあんな存在が認められてるんだ」

オティス 「腕は確かなんですよ。武器や魔法で魔物を狩る手段に長けているからこその勇者特権です」

アニ   「あたし、あの勇者さま嫌い」

オティス 「奇遇だね、私も」

ハント  「おいおい、あんまりそういうこと言うもんじゃ・・・」

オティス 「そうですね、どこで聞かれてるかわかったもんじゃないから気をつけないと。」

アニ   「んん・・・お姉ちゃん、あたしもう寝たい」

オティス 「わかった。それじゃ・・・ちょっと待って。私忘れ物してた」

ハント  「忘れ物?もう遅いし、明日でもいいだろ」

オティス 「ちょっと急なものなので、行ってきますね」

ハント  「お、おい!なんなんだ、まったく」

アニ   「お姉ちゃん、どうしたのかな?」

ハント  「わからん」



リオス  「まったく。どいつもこいつも、薄っぺらいですわね」

オティス 「悪かったね、君ほど豊満じゃなくて。」

リオス  「なっ!盗み聞きとは趣味が悪いですわね!
      それに私は引っ込むべきところはしっかりひっこめてますわよ!太ってなどいませんわ、ええ決して!」

オティス 「聞かせておいてそれか。もう少し小さい声で喋れるように努力しなよ」

リオス  「失礼でなくて?この私にそのような態度を取るなんて、燃やされたいのかしら」

オティス 「おや、勇者一行の魔法使い様が一般市民に手を出すの?さいてー」

リオス  「あなたは旅人でしょう、突然いなくなったとしても不審に思われないわ」

オティス 「やめてほしいな。さっきも言ったけど、彼と私は同じじゃないんだ」

リオス  「ええそうでしょ、そうでしょう。何故なら彼は勇者であり、あなたのような」

オティス 「だーかーらー、思い上がりすぎなんだよ馬鹿」

リオス  「なんのことですの?あなたが自ら違うと言ったのでしょう」

オティス 「うん。誰にも迷惑をかけずに一人旅をしてる私と、
      辺りを荒らし回ってるタチの悪い勇者様を一緒にするなってこと」

リオス  「っ!ケルディ様を馬鹿にするんですの!?」

オティス 「するよ。慈善事業じゃないのはごもっともだけど、かと言って好き勝手やっていいわけじゃない」

リオス  「国より認められし勇者に民たちが協力するのは当たり前ですわ!」

オティス 「そりゃそうさ。君たちは盗賊か何かなのか?勇者であるなら勇者らしくあるんだね」

リオス  「盗賊とは聞き捨てなりません!ケルディ様こそ真の勇者であり、魔龍を討ち倒すお方!
      あなたにそんなことを言われる筋合いはありませんわ!」

オティス 「へぇ、そう。私なら有象無象の雑音にいちいち反応しないけど。鮮明に聞こえたってことは、図星かな?」

リオス  「お黙りなさい!そんなに灰になりないのかしら!?」

ラーファ 「なんだなんだ、うるせえなリオス」

リオス  「ラーファ・・・なんでもありませんわ!ええ、私は平常心です!」

ラーファ 「興奮してんのか?なんだどうしたお前!」

リオス  「話を聞いてくださいまし!」

オティス 「なんでもないよ。ちょっと彼女と楽しくお話してただけ」

ラーファ 「ほんとか?リオスがなんか不満そうだぞ」

オティス 「それについては彼女の勘違いだね、それに私も彼女に悪く言われて傷付いた身だよ?」

リオス  「どの口が言うのですか!ケルディ様を侮蔑するなど!」

ラーファ 「ああ?ケルディを馬鹿にしたのか?」

オティス 「いやいや、勘違いだよ」

ラーファ 「ケルディを馬鹿にしたってんなら俺も許さねえぞ」

オティス 「だから勘違いだって。それじゃ私はこの辺でさようなら」

リオス  「あ、逃げた!もう、失礼極まりませんわ!なんなのかしらあの人!」

ラーファ 「おい、ほんとに勘違いか?」

リオス  「そんなことありませんわ!敬愛する人を馬鹿にされて、黙っているなど我慢ならないですわ!」

ラーファ 「なら信じる。あいつ、どうしてやろうか」

リオス  「明日、ついでにやればいいわ。あれを持ち出したあたり、ケルディ様はそのつもりでしょう」



オティス 「ごめん待っててくれてたんだねアニちゃん!寝るよ!おいで!」

アニ   「わーい!お姉ちゃん、あったかいね」

オティス 「そう?そんな気はしないけどな」

アニ   「お母さんね、寝るときはいつもこうやって一緒に寝てくれたんだよ」

オティス 「アニちゃんのお母さんは、いつ旅に出ちゃったの?」

アニ   「えっと、あたしが6歳の時かな?」

オティス 「随分前だね、なら、あんまりお母さんには甘えられなかったんだね」

アニ   「うん…わわわ、お姉ちゃん?」

オティス 「ぎゅーってしてあげる。どうかな、癒されたりする?」

アニ   「むぐ!うん、柔らかくてあったかくて、落ち着く」

オティス 「そっか。ならよかった」

アニ   「お話聞きたかったんだけど、眠たくなってきた」

オティス 「またいくらでも聞かせてあげるから。今夜はもうお姉ちゃんの胸の中で眠りなさい」



○○○



オティス 「は、は。強いなぁ。試合なら私の負けだけど…勝負なら私の勝ちだ」


オティス 「残念だったね、そこまで弱ってくれたのなら完璧だ。もう封印のための式は展開してる。」


オティス 「一緒に逝こうぜ。君の野望は私がずっと聞いてやるからさ」



○○○



アニ   「お父さん、おはよう!」

ハント  「おお、おはようアニ。今日はずいぶん早いな。」

アニ   「お姉ちゃんと一緒だとぐっすり眠れたんだ」

ハント  「アニ、朝弱いのにな。旅人さんはどうしたんだ?」

アニ   「用事があるーって出て行っちゃった!あのね、ちょっと変な夢見たの」

ハント  「変な夢?どんな夢だったんだ?」

アニ   「勇者さまが魔龍を封印する夢」

ハント  「・・・ほー、タイムリーだな」

アニ   「お姉ちゃんに勇者様の話聞いたからかな」

ハント  「そうじゃねえかな。しかし不思議な人だな、あの旅人さん。
      このままこの町で暮らしてくれたりしたらどんなにいいか」

アニ   「それいい!楽しそう!」

ハント  「けど旅人だからなあ、そうもいかねえだろうな」

アニ   「そうね・・・けど、またこの町に遊びにきてくれるといいね!」

ハント  「そうだな、とりあえず店を片付けよう。そろそろ開店時間だ」

アニ   「うん!」

ケルディ 「朝早くからこんにちは」

ハント  「おっと・・・いらっしゃい。朝食ですか?」

ケルディ 「昨日いくつか店を巡ったが、ここの食事が一番朝食に向いてそうだ」

ラーファ 「だな!肉がうめえ!」

リオス  「あなた、ホットドックとかにした方がいいのではなくて?」

ハント  「あー、まだ片付けが済んでないですけど?」

ケルディ 「構わないよ、こちらにも非はある。席が無事ならいい」

アニ   「こちらへどうぞ」

ラーファ 「派手にやっちまったなあ」

リオス  「あなたが要領を得ずにあれこれひっくり返すからですわ」

ケルディ 「たしかに雑だ。次からはもう少し丁寧にやってくれ」

リオス  「あれ・・・この箱はなんですの?」

ハント  「なんだろう、そんな箱あったかな」

ケルディ 「わからないなら開けてみるといい。構わないね?」

ハント  「誰のかわかりませんが・・・一応確認してみてください」

リオス  「ラーファ、開けてください」

ラーファ 「おう!こんな錠なんざ簡単に壊せる!おりゃ!」

リオス  「っ!こ、これは!」

アニ   「なにこれ、本?」

ケルディ 「…ラーファ、リオス」

ラーファ 「おう」

リオス  「わかっていますわ」

ハント  「な、なんだ?」

リオス  「ハントとやら、あなたを拘束させていただきます」





オティス 「やっぱり。拠点に魔法を撃ち込んだだけだ。細部まで届いてないし、まだ子供と卵が生きている」

オティス 「魔物それ自体は倒せるみたいだけど、拠点処理が甘すぎる。この様子だと何匹か逃げてるな」

オティス 「さて、後処理はしたし対魔トラップも仕掛けたからもうここにはもう魔物は寄ってこないだろうけど・・・ん、町から煙?」





ケルディ 「聞け、町の者たちよ!この喫茶からこのようなものが見つかった!」

リオス  「これですわ!魔龍を模ったエンブレムが刻印された魔導書!」

ケルディ 「この魔導書には禁じられた魔龍の呪文が記されている!」

ラーファ 「おうてめーら、これがどういうことかわかるか?」

ハント  「魔導書?何だそれは!」

ケルディ 「その魔導書には魔龍を呼び寄せるとされる呪文が載っている。その他、禁忌とされる呪文もだ」

リオス  「これを手にするということは、王…いいえ、人類への反逆ということになるのよ!」

ケルディ 「私たちは反逆者を取り締まる権利も持ち合わせている」

ラーファ 「おうお前!どうしてこんなもの持っていたか話してもらおうじゃねえか!」

ハント  「だからさっきから言ってるだろ!俺はそんなもの知らないって!」

アニ   「そんなの知らない!お父さんを離して!」

ケルディ 「はあ(溜息)・・・まだしらばっくれるのか、仕方ないな。リオス」

リオス  「はいっ!来たれ、炎神の加護!悪を打ち払う炎を我に!フレイムッ!!」

アニ   「あ、ああ!?町に火が!」

ハント  「おい!なんてことしやがるんだ!」

ケルディ 「もう一度問う。どうしてこの魔導書を持っていた。さもなくばこのまま町を焼くことになるぞ!」

ハント  「おい何をする!火を消せ!」

ケルディ 「はやく喋った方がいい。何もかも灰にしたくないだろう?」

ラーファ 「どうした!言い訳でも考えてんのか!」

ハント  「だから、俺の持ち物じゃない!持ち主も心当たりはないんだ!」

アニ   「水、水!火を消さなきゃ!」

リオス  「無駄ですわ!私の炎はそこらの水程度で消せるほど弱々しいものではなくてよ!」

ハント  「おいやめてくれ!頼む!町を焼かないでくれ、やめてくれ!」

ラーファ 「うるせぇ!」

ハント  「なっ、がぁっ!」

アニ   「お父さん!」

ラーファ 「おら、吐け!お前らは何を企んでいた!」

ハント  「ぐっ!が、ごほぉ!(殴られる)」

アニ   「や、やだ!やめて!お父さん!」

ケルディ 「残念だ。どうしてこんなことを考えてしまったんだ」

ハント  「俺は・・・何も知らん!何も、していない!」

ラーファ 「俺の拳は痛えぞ。とっとと吐きな」

アニ   「やだ!やめて!やめてよ!」

リオス  「静かにしなさい。これはあなたのお父さんが悪いんだから」

ケルディ 「なるほど、ここまで何も話さないとなると…さてはこの本はあの旅人のものかな?」

ハント  「旅人さん・・・オティスさんが?」

ケルディ 「君はこれを知らないのだろう?町の者も名乗り出ない。ならば怪しいのはあの旅人だけだ」

リオス  「たしか、彼女はこの店主の家に宿泊していたのよね?」

ラーファ 「あー、なるほど。確かにあり得る」

リオス  「あの旅人を連れてきなさい!彼女には聞かねばならぬことがあるようですわ!」

ハント  「そんな、まさかあの人が?」

ケルディ 「どうやら、今ここにはいないらしい。確実だな」

アニ   「お姉ちゃんを悪くいうなぁ!!」

ハント  「アニ!?」

ケルディ 「それは、どういうことかな?」

アニ   「お姉ちゃんはそんなことしない!」

ラーファ 「おいおい、何言ってんだ」

リオス  「あなたは彼女の何を知ってるのかしら?」

アニ   「あんたたちこそ、お姉ちゃんの何を知ってるの!お姉ちゃんは自分たちのために物を奪ったりしない!
      お姉ちゃんは人を殴ったりしない!お姉ちゃんは温かかったんだ!あんたたちとは違うんだから!」

ハント  「そう、だな・・・俺は誰を・・・」

ラーファ 「へー。そう、かいっ!」

アニ   「ああっ!」

ハント  「アニ!たのむやめてくれ!俺たちは何も、ぐっ!」

ラーファ 「何も知らねえ、だあ!?ならそれを示せ!なにもやってねえって示してみろよ!」

ハント  「頼む、せめて、町は、町だけは!」

ケルディ 「リオス」

リオス  「はい!悪を滅する術を授けたまえ!広がれ、炎よ!」

ハント  「そんな、やめろ、やめてくれっ!このままじゃ全部燃えちまう!」

ケルディ 「やめる、か。おかしなことをいうな」

リオス  「さあ、燃えよ!悪に満ちた町よ!燃えなさい!」

ケルディ 「ここは片田舎で、経済的にあってもなくても大した影響はないだろう?私の懐も癒せないこんな町をどうして守る必要がある?」

ハント  「あ・・・うえ?」

ケルディ 「もういいだろう。死んでくれ」

アニ   「あ・・・お父、さん?」

リオス  「ふふ、ふふっふふふふふふふ!ラーファ、見ましたか?あの顔、あの声!」

ラーファ 「はははははははぁ!まさに絶望って顔だな!これだからお前の仲間はやめられねえんだ!」

アニ   「お父さん!ああ・・・っ!」

ケルディ 「心臓を外したか、少し腕が鈍ったな」

ハント  「がは、ぐ、うう・・・」

アニ   「お父さん、お父さん!そんな、嫌だ。嫌だ!死なないで!お父さん!」

ハント  「アニ・・・今まで、黙っててすまなかった」

アニ   「お父さん?」

ハント  「お母さんは・・・もう、この世に・・・魔物に、襲われ・・・黙ってて、すまな、かっ」

アニ   「そんなの・・・いい、いいんだよ。お父さんがいたから、私さみしくなかったよ」

ハント  「墓は、丘の上に・・・夕陽が綺麗な・・・母さんが、好きだった場所に・・・」

アニ   「な、なら二人で行こうよ!お母さんにちゃんと、元気にしてるよって伝えようよ!そうしよう!」

ハント  「ああ、そう・・・だな。二人で・・・アニを」

アニ   「あたし、あたし頑張るから!これからもお父さんの店、たくさん手伝うから!
      看板裏返して、大工のおじさんにサンドイッチつくって、コーヒー豆挽いて!
      ・・・まだ、教えてもらってないことたくさんあるんだよ?」

ハント  「はは・・・こんな娘を持てて、幸せ・・・だったな」

アニ   「だから、だめだよ、いなくなっちゃやだよ!おとうさ・・・ぐしゃ?」

ラーファ 「甘いんだよケルディ、ちゃんと壊してやらねえと死なないぞ」

アニ   「あ、ああああ、お父さ・・・いや、いやだよぅ・・・うあ」

ラーファ 「で、どうする?火消すか?」

ケルディ 「今更、旅人の是非は問うまでもないだろう。それに、悪意に気付かなかったのはこの町の罪だ」

ラーファ 「なら、みんな殺せばいいんだな!」

アニ   「やだ、一人なんて・・・こんな、こんなの・・・」

ラーファ 「まずはこうるせえこのガキからだ!」

アニ   「う、わあああああああああああ!」

ラーファ 「死ね・・・な、なにっ!?」

ケルディ 「おい、何をしているラーファ。そんな遊びをしろと言ったか」

ラーファ 「違えよ!斧が動かねえ!途中で何かに引っ掛かったみたいに止まったんだ!このガキ、何をした!」

リオス  「泣いてるだけの子供にそんな芸当できませんわ!早くやりなさい!」

ラーファ 「わかってら、お?雨降ってきたぞ」

ケルディ 「そのようだ。だが悲しいかな。ただの雨ではリオスのフレイムは消えないぞ」

オティス 「そうだね。普通の雨なら、ね」

ラーファ 「なんだあ、お前か!」

アニ   「お姉・・・ちゃん?」

オティス 「なにしてんのさ、あんた」

ラーファ 「邪魔しようたって・・・て、おいリオス!火が消えていくぞ何してんだ!」

リオス  「そんな、フレイムが雨なんかに消されるなんて!」

ラーファ 「さては、てめえの仕業かオティスとやら!なにしに来やがった!」

オティス 「何って、慈善事業だよ。文句あるのか」

ケルディ 「おや、君か。不運だったね、悪いがこの町は現在断罪中だ」

オティス 「のどかで優しくて、気に入ってる町なのに、なんで燃やそうとするかな」

リオス  「反乱分子を潰すためですわ!王のため国のため民のため!手を止めるわけにはいかないのですわ!」

オティス 「そのために人間殺してちゃあ本末転倒だろうよ。それにその魔導書、あんたたちのでしょ」

ケルディ 「オティス、と言ったか。わざわざ出てきて何の用かな?」

オティス 「ハントさんの淹れるコーヒー、美味しかったんだよ。今まで飲んできたコーヒーでも指折りでね」

ケルディ 「そうか、しかしもう飲めなくなってしまったな。申し訳ない」

オティス 「だから勇者ってのは嫌なんだ。もう火は使えない、誰も殺せない。詰みだよケルディ」

リオス  「そんな・・・炎を出そうとするたびに雨で消えてしまいますわ!」

ケルディ 「なるほど、私の炎もダメか。どういうカラクリかな」

オティス 「教えないし、許さない。緒どころじゃない、もう堪忍袋ごと裂けてるから」

ケルディ 「ただの旅人に、この勇者ケルディが止められるとでも?」

オティス 「止められる。権利を濫用して鼻伸ばしてるお前を勇者と呼ぶ奴なんてこの世にいない」

ケルディ 「言ってくれるな、オティス。そこまで言うなら止めてみるが良い」

ラーファ 「おいケルディ!俺にやらせろ!お前が出るまでもねぇ!」

オティス 「お前に用は無いんだけど。どいて」

ラーファ 「うるせぇ!お前も殺してやるよ!俺ぁムカついてんだ!」

オティス 「君が望むなら剣くらい抜くけど、私が斬りたいのは君じゃない」

ラーファ 「いいや、俺はお前を斬り飛ばしてやる理由がある!さぁ来い!サイコロステーキにしてやる!」

オティス 「実力差くらい一目見てわかるようにならなきゃ、魔龍討伐なんて夢のまた夢だよ」

ラーファ 「うるせえ!死にやがれええええ!」

オティス 「うん、君がね。」

ラーファ 「がっ!?な、戦斧が壊れただと!?」

オティス 「軌道が丸わかりだし、武器のメンテがなってない。だから弱点を突かれるんだ。来世でやり直し」

ラーファ 「このやろう・・・が、はっ」

オティス 「喉笛を一閃。うまく狙えてたら即死だったろうけど外しちゃった。許してね」

リオス  「ち、ちょっと!ラーファが一太刀でやられちゃったわよ!?」

ケルディ 「なるほど、よくやるものだ。是非とも仲間に欲しい人材なのだがな」

オティス 「よくやる、なんて上から目線のままで平気かな、自称勇者さま。
      この剣に見覚えはない?」

ケルディ 「お前の剣がどうした・・・っ!七つの宝石が埋め込まれた宝剣・・・七星剣か!?」

オティス 「勇者名乗ってるなら知ってるでしょ、
      一般人なら抜くことすら出来ないこの剣を手にすることが出来るのはどんな人間か」

ケルディ 「ば、バカな。あり得ない。魔龍封印の日から捜索され続けて手掛かりすら見つからなかった剣だぞ!」

オティス 「ずっと私が持ってたからね。見つかるわけないよ」

ケルディ 「はは、さては贋作か。私は勇者だ、偽物の剣をもつ旅人ごときに負けるはずなどない!」

リオス  「ケルディ様!炎は使えないのですよ!」

ケルディ 「炎なぞ無くても、俺にはこの神聖剣がある!」

オティス 「へえ、悪くない剣筋。一級の腕前はあるんだ」

ケルディ 「当然だ!私は魔龍を倒すべく生まれてきた、そのために今まで旅をしてきたのだ!」

オティス 「頑張って強くなったと。わかるよ、キングゴーレム強かったでしょ?」

ケルディ 「私が、こんなところで、負けるわけなど!」

オティス 「いいラッシュだ、受けて、流して、そりゃっ!と、ちょっと遠いな。かすっただけか」

ケルディ 「くっ、何故だ・・・何故全て受けられるんだ」

オティス 「そりゃあ、熟練度の違いだよ。駆け出し勇者の君と、私のね」

ケルディ 「私は・・・俺は!勇者ケルディだ!」

オティス 「そうか、私はオティスだよ」

ケルディ 「うぐぁぁ!」

リオス  「ケルディ様!」

ケルディ 「ぐ、う・・・う、腕を切断された!?お前は、いったい何者なんだ!」

オティス 「王からの祝福の紋章は持ってないよ。けど、これならあるよ」

ケルディ 「っ!?脇腹に龍の痣、七星剣、お・・・お前っまさか、原典のっ」

オティス 「はい、答え合わせは終わり。君みたいなやつには断頭がお似合いだ。ふっ」

リオス  「あ、ああ!ケルディ様が負けるなんて!いや、いやぁ!」

オティス 「さて、リオスだっけ。君が得意なのは、炎と回復だったかな?」

リオス  「ひぃっ!あ、あっ!来ないで!」

オティス 「ちなみにこの雨は私が降らせた。
      魔力を詰め込んであるから、火を消すというよりは吹き飛ばすに近い」

リオス  「て、天候を操るなんて並大抵の魔法使いに出来ることでは・・・」

オティス 「ないよ。ちなみに相手に消されない炎ってのは、こうやってやるんだよ。フレア」

リオス  「えっ、あ、あ!服に火が!やめて!消して!いや、いやああああああ!熱い!熱いいいいい!!」

オティス 「君の魔法で消してみたら?多分消せないと思うよ」

リオス  「いやぁ!熱い、熱いわあああああああ!こん、あ、わたし、が・・・」

オティス 「炭になってまで思念で喋るなんて、なかなか生への執着が強かったんだね。
      ・・・よし、あとはケルディの持ってる祝福の紋章を潰しておかないと。祝福の力で復活するかもしれない」

アニ   「お、お姉ちゃん・・・何者なの?」

オティス 「私は普通の人間だよ。
      300年前に魔龍ごと自身を封印した、『原典の勇者』とか呼ばれてた普通の人間さ」

アニ   「ゆ、勇者さま!?本物!?」



◆◆◆


オティス 「300年前の魔龍と勇者の対決は、勇者が魔龍ごと自身を封印することで決着がついた」

アニ   「お話の通りなんだ」
オティス 「けどどういうめぐり合わせか、封印が解けてしまった。
      しかも一緒に封じたはずの魔龍は何処にもいない」

アニ   「な、なら魔龍はもういないの?平和なの?」

オティス 「そう思ったよ、けどいざ復活してみたらどうだい。
      魔龍復活の噂が広まってるし、魔物は野に放たれたままだし、勇者が町に蔓延っていた。」

アニ   「それで、また旅をしてるんだ」

オティス 「元はと言えば私が不甲斐ないせいでこんな世の中になったから、始末は自分でしなきゃと思ってね」

アニ   「つまりお姉ちゃんはヒーローだ」

オティス 「そんな高尚なものじゃないよ。結局今回も、中途半端だ」

アニ   「そんなことない。だって悪い勇者をやっつけたんだ。すごいことだと思うもん」

オティス 「あ、そっか言ってなかったっけ。今ね、勇者ってこの国に百人くらいいるんだよ」

アニ   「ひゃひゃひゃひゃくぅっ!?そんなにいるの?」

オティス 「王が何人も一気に勇者として認めちゃってたみたいでね。気が付いたころにはこの始末」

アニ   「そ、そうなんだ。それでお姉ちゃんはこれからどうするの?」

オティス 「とりあえず旅は続けるよ。悪どい勇者を退治するたびを、ね」

アニ   「旅は続けるんだね・・・はい、お姉ちゃん。コーヒー淹れてみたよ」

オティス 「おお、頂くね・・・うん、美味しい。ハントさんのと同じ味だ」

アニ   「ほんと?よかった。まだちゃんと、お父さんは私の中にいるんだね」

オティス 「そう簡単に、人は世界から消えないよ。で、アニちゃんはこれからどうするの?このままお店続けるのかな」

アニ   「あたしは・・・あたしはね、お姉ちゃんの手伝いがしたい」

オティス 「え、手伝いって・・・一緒に旅をしたいってこと?」

アニ   「お願い!助けてもらった恩を返したいの!
      あたし、絶対役に立つ。コーヒーも毎日淹れる。それにそれに・・・」

オティス 「危ない旅だよ。私だって明日生きてるかわからない。何せ相手は世界なんだ」

アニ   「わかってる。けどこのまま町でおじさんたちにコーヒーを淹れ続けるより、お姉ちゃんの力になりたい。
      お父さんとお母さんの無念も、晴らしたいんだ」

オティス 「はあ、覚悟してるんなら止められないな。たしかに一人旅ってのもそろそろ退屈だ。よしわかった!一緒に行こう」

アニ   「本当!?あ、けど・・・本当について行っていいの?」

オティス 「いいのいいの、華は欲しいし、なによりアニちゃんには素質があるから」

アニ   「素質?よくわかんないけど、あたし頑張るね」

オティス 「うん!けどまずはプリメロの復興からだよ。お父さんのお墓も、ちゃんとつくってあげないとね」

アニ   「うん、わかった・・・って、お姉ちゃんも手伝ってくれるの?」

オティス 「勿論。どう考えても私が手伝った方が5倍は早く終わるよ。
      燃えた家の修復に、対魔対勇者対策。奪われたものもそこの台車にまとめてあるし。」

アニ   「そこじゃなくて、お墓って・・・」

オティス 「そりゃあ、お世話になったもの。それにね、ちゃんとお墓を作ってあげられるって幸せなことなんだよ」

アニ   「・・・うん、ありがとうお姉ちゃん」

オティス 「さぁそうと決まれば作業だよ!まずはお世話になったここのカフェの掃除からだ!」

アニ   「うん!よーし、やるぞ!」



アニ   「その後、オティスお姉ちゃんは復活せし原典の勇者として、
      私は稀代の魔法使いとして名を馳せることになるのだけれど、それはまたずっと先の話。」